絵本と歩む 親子の強いつながり描く 『わたしたち』
母親は子供を抱っこし、優しく語りかけます。
「もしも わたしが ひつじなら あなたは こひつじ」
馬と子馬、うさぎと子うさぎ…つながった命はいつも寄り添い合っています。
「でも あるひ あなたは とびたってゆく」
親うさぎはどこか寂しげに子うさぎの後ろ姿を見送ります。子うさぎの行く手が冬のように寒くつらいこともあるけれど、いずれ、さなぎが蝶(ちょう)になる春を迎えます。
「そうして なりたいあなたになって もどってくるでしょう」
子うさぎが立派な角を持つ鹿になって戻ってきたとき、親うさぎは小鳥になっていました。時を経て互いの姿形は変わっても、小鳥は大きな鹿の頭を優しくなでてこう言うのです。
「いつだって あなたは わたしのこども」「これからも ずっと わたしたちのまま」
子育ては、喜びと同時に悩みや戸惑いの連続で、親の思い通りにはなりません。子供はどんなに幼くても、一人の意思を持った人間だからです。子供を愛するからこそ子供を信じ、子供の喜びを「わたしたち」の喜びとして願い、祈り続けることで、かけがえのない「わたしたち」になっていくのではないでしょうか。その思いは時を超えていきます。
ページをめくる度、温かな色彩の絵の中に作者の思いや仕掛けを見つけることができます。また、絵本を手にとる度に新たな作者のメッセージに気づくことのできる味わい深い一冊です。
(国立音楽大教授 同付属幼稚園長 林浩子)