AIグラビアアイドルの何が問題だったのか?「顔だけ」「演技だけ」「声だけ」俳優が誕生する日は近い
梅雨入りの少し前、浅草橋の駅前にあるコワーキングスペースに、ちょっと太った男が入ってきた。男は興奮気味に、手に持った一冊の雑誌(そう、紙の雑誌だ)を私に見せた。
「読みました? 今週の『週刊プレイボーイ』」
聞けば『週刊プレイボーイ』を刊行する集英社が、生成AIで作ったグラビアアイドルの写真集を発売するという。
発売すること自体は耳にしていたが、生成されたAIグラビアなるものは実際には見ていなかった。
そこで、写真集となる予定のグラビアが掲載された雑誌をパラパラと見てみると、すぐに「これはまずい」と感じた。
「実在の人物との関係」「画像の著作権」など、考え始めれば気になる点はいくつかある。しかしそれ以上に、著者が何を「まずい」と感じたかと言えば、AIグラビアが、人間の女性が連続して何人か掲載されているコーナーに一緒に並んでいた、ということである。
編集部としては、ちょっとした遊び心だったに違いない。しかしこれは、ある種の業界の人々に危機感を抱かせるのに十分な挑発に見えた。
まず、誰がどう見ても、「人間のグラビアアイドルのポジションを、この先、AIグラビアが取って代わるかもしれない」というメッセージを含んでいることが容易に想像できる。
特にそれを生業としている人や、そうしたグラビアアイドルの支持者からすれば、それは自分たちにとって「終わりの始まり」に見えてしまうかもしれない。
グラビアページは、業界関係者が自分の会社やライバル会社のタレントをチェックする、もしくは自分の仕事にかかわってもらうキャストを選ぶために眼を通すような、いわば「戦場」だ。ここから知名度を得て、テレビやイベントへ羽ばたいていくアイドルも多い。
そのグラビアアイドルたちの貴重なステージを、生成AIが奪う。そんな構図が透けて見えた。
生成AIによるグラビア写真集だけをしれっと発売していたのなら、騒ぎはここまで大きくならなかったかもしれない。
しかし、本来人間があるべき、人間が大切にしてきたページをAIに「奪われた」と受け取った関係者が心穏やかでいられるはずがない。
実はAI…というか、CGでグラビアが作られたのはこれが初めてではない。
ホリプロは、1996年に伊達杏子というバーチャルアイドルをデビューさせている。伊達杏子は2007年までに3代にわたってバージョンアップを重ねた。2018年には「伊達杏子の娘」という設定の「伊達あやの」まで登場している。
しかし、伊達杏子の存在を問題視した人は、これまでいないのではないだろうか? 今や、VTuberが普通に存在する時代でもある。
結局、数日で写真集の発売は取り下げられた。主に「生成AIをとりまく様々な論点・問題点についての検討が十分ではなかった」というのが、版元が発表した取り下げの理由だった。