原田裕規「Shadowing」展、トランスナショナルな人間の生と“影”の関係を描き出す
原田は2019年から断続的にハワイに滞在し、独自に発展した「ピジン英語」に代表されるトランスナショナルな文化的モチーフを収集してきた。また、2021年からはCG作品の制作を開始。同年に金沢21世紀美術館で33時間におよぶ長編CGアニメーション作品「Waiting for」を発表し話題となった。
本展で公開するのは、近年の作家によるふたつの取り組みが融合した新作「Shadowing」。本作は、作家がハワイで知り合った日系アメリカ人たちをモデルに、最新のデジタル技術で制作したデジタルヒューマン/映像作品。作中の登場人物が語るのは、日系アメリカ人がハワイで代々語り継いできた「オバケ・ストーリー」。
本作では、ハワイ在住の日系アメリカ人がピジン英語で発音した音声を原田がシャドーイングし、その表情の動きをフェイストラッキングによってデジタルヒューマンが「シャドーイング」している。そのため、三者の声と動きには常にズレが挟まれることになる。一方で、彼らの声と動きが時折重なったとき、心を持たないはずのデジタルヒューマンに私たちは感情を読み取ってしまう。果たして、これは「誰の」感情なのだろうか。
原田にとって本作は「Waiting for」に続く一年ぶり・二作目のCGアニメーション作品。ソフトウェアの無償提供やスマホアプリ化などにより、近年民主化が進んでいるデジタルヒューマン/フェイストラッキング技術を用い、移民がもたらしたハワイの民間伝承を翻案すること。それによって「Shadowing」は、トランスナショナルな人間の生と「影」の関係を描き出している。