日本型学力テスト、ウズベキスタンに輸出 新興国の教育改革後押し
◆詳細分析に関心
昨年12月、大手予備校「河合塾」の模試などを手掛ける同塾グループの全国試験運営センター(東京都千代田区)を、ウズベキスタンの国立テストセンターの幹部らが視察した。国立テストセンターは同国で国立大入試などを担う政府機関で、日本の大学入試センターのような存在。コンピューターを使ったテストを体験できる研修施設で、ノートパソコンに次々と試験問題が映し出されていく様子を熱心に見守っていた。
国立テストセンター一般教育科目チーフスペシャリストのニションボイエフ・シャディル・ショディモロヴィチさんは「日本の模試は結果が詳細に分析され、自分がどれくらい頑張れば志望校に合格できるか立ち位置も把握できる。ウズベキスタンにはないものだ」と話す。
◆少子化、市場開拓
旧ソ連時代の制度が色濃く残るウズベキスタンの学校教育では近年、改革熱が高まっている。24歳以下が人口の4割超を占め、2020年の国立大受験者が120万人を超えるなど、農業国から工業国への転換に伴って大学進学希望者が増えている。
経済協力開発機構(OECD)が実施している国際学習到達度調査(PISA)の数学的リテラシーで30年までに30位以内に入ることも目標に掲げる。18年実施のPISAでは、日本の同リテラシーはトップレベルで、「その経験に学びたい」(ショディモロヴィチさん)。
一方、日本の予備校は18歳人口の減少で国内市場の縮小を余儀なくされている。市場開拓を模索し、その視線は海外に向いた。河合塾グループで教育モデルなどを開発する「KEIアドバンス」が21年8月、国際協力機構(JICA)の採択事業としてテストの試験的な導入に乗り出した。
同11月、首都タシケント周辺の公私立学校では、日本の中学2年から高校1年にあたる約3600人を対象に現地の教科書を基にした数学のテストを実施。子供たちの成績を偏差値などの指標を使って分析した。
◆アフリカ展開も
どの問題が解けなかったのか。正答率はどの程度か-。「そうした分析は日本の受験生には当たり前だが、ウズベキスタンでは当たり前ではなかった」(KEIアドバンス)。データを基に指導の改善点などを同国の政府に提案すると大きな反響があったという。
テストは22年4、11月にそれぞれ2、3回目が行われ、23年4月に予定されている4回目が最終回となる。その後はテストを全国的に本格展開し、ゆくゆくは教科書の改善や教員の指導スキル開発といった教育改革にもつなげたい考えだ。河合塾グループは同国での実績を足掛かりにキルギスやアゼルバイジャンなど周辺国でもテスト輸出を構想。アフリカへの進出も視野に入れているという。
KEIアドバンスの坂田拡光(ひろみつ)取締役は「海外援助というと道路やプラントなどハードインフラの整備がイメージされがちだが、それらを維持できる十分な教育を受けた人材がいないという課題もある。日本ならではの教育といったソフトインフラの輸出は存在感を発揮できる。海外で新たな教育効果が確認されれば、成果を日本へも逆輸入できるかもしれない」と話した。(玉崎栄次)
■ウズベキスタン共和国 中央アジアに位置する旧ソ連の構成国。1991年、ソ連解体とともに独立した。外務省によると、国土は日本の約1・2倍で、人口は約3440万人(2022年時点)。21年の経済成長率は7・4%。日本からの経済援助が活発なことなどを背景に、親日国としても知られる。