【建築家・坂茂】紙管のシェルターで被災者支援を続ける終わらぬ使命
彼は日本のスキーリゾートの軽井沢に、合板を用いたプレハブ工法のホテル「ししいわハウス」を造り、フランスのメスではポンピドゥー・センターの分館、「ポンピドゥー・センター・メス」を造った(フランスの建築家ジャン・ドゥ・ガスティーヌとの共同設計で、竹で編んだ中国の帽子に似せた屋根がのっている)。さらにコロラド州の「アスペン美術館」では、カーテンウォールの外側に合成樹脂加工を施した段ボールの格子状スクリーンを配置した。最近完成した静岡県の「富士山世界遺産センター」は、逆円錐型の構造体の半分がガラスの箱に入っており、その上に平らな屋根がのっている。
この建物は清らかな風情を感じさせ、日本の最も著名なシンボルの麓に広がる静かな町に、厳かに建っている。だが、坂の全作品を見渡してみると、このような“普通の”建築物はかなり異質だ。彼の主要な作品は、一時的な仮設の建築物であり、クライアントにとってその施設が必要なくなれば、この世から消滅してしまう運命だからだ。彼のクライアントとは、災害や人災の被害者たちだ。
坂は住宅やビジターセンター、コンドミニアムやタワーもデザインするが、緊急時用のシェルターのデザイナーとして、その名が最も知られている。それは地震や洪水で被災した人々や、暴力や虐殺を逃れてきた人々のための建物だ。それらのために採用したのは、坂のシグネチャーである素材、さまざまな長さや厚さの再生紙の管(紙管)だ。世界中のどこでも手に入る。小さなサイズなら、トイレットペーパーやペーパータオルの芯もそうだ。豊富に手に入るだけでなく、構造的にもしっかりしており、シェルターや住宅、さらに教会の構造としても使うことができる。坂はそんな建築物すべてを自ら造ってきた。