美村里江のミゴコロ 謎のイチゴ屋さん
大小まちまち、白っぽいのもナスのように曲がったのも入っている。その分気前よく山盛りで、全員(全粒)ピカピカと輝いている。意気揚々と2パック購入。紙袋に悠々横たわっていただき、自宅へお連れした。
帰ってから夫が出張中だと気がついた。うっかり多めに買ってしまった、どうしよう、まあ酸っぱかったらコンフィチュール(ジャムのようなもの)にして、夫の好きなバニラアイスにかけてあげようか。ひとまず味見を。1パックをざっと洗い、お行儀悪くもそのまま、特に小さく歪(いびつ)な一粒を選んで口に運んだ。
…お、おいしい!
しっかり密な果肉から、甘酸っぱさがほとばしった。そのうえ香りも良く、瞬く間にキッチンに春らしい香りがあふれた。これは加熱なんぞしてはいけない。
そのまま朝食として1パック、本を読みながらゆっくり味わった。大きいのも小さいのも味が濃く、こんな素晴らしいイチゴが200円…うふふ。
ぜいたくな春の味覚を翌日もう一度堪能し、数日後、帰ってきた夫には少しお高めのイチゴを用意しつつ、つい200円のイチゴを自慢してしまった。お得でおいしいものが大好きな夫はうらやましがり、「あのイチゴ屋…今年は見つかるかねぇ」と遠い目をした。
私の脳裏にもすぐに浮かんだ、プレハブ小屋に庇(ひさし)を付けたような、よくある直売所。渓流釣りの帰り道、ふと停車して「やよいひめ」を2パック購入した。そのイチゴがわれわれ夫婦の不動のナンバーワンになったのだ。あまりのおいしさにUターンし、もう4パック追加購入したほどだった。
イチゴのハウス栽培が盛んな土地だが、そのお店が変わっていたのは、夜なのに中学生らしき女の子が2人だけでお店番をしていたこと。そしてこのお店が、その後何年探し回っても見つからないのだ。
2人とも記憶力は悪くない方だが、あのときのイチゴのあまりのおいしさと、夜の中学生の不思議な雰囲気が相まって、キツネかタヌキのイチゴ屋だった説まで浮かびはじめている。今年はたどり着けるだろうか。