こけら落としは女性作家5人の展覧会。有楽町に新ギャラリー「M5 GALLERY」
Worlds」では、キュレーターに藪前知子(東京都美術館学芸員)を迎え、渡辺志桜里、藤倉麻子、長谷川愛、青柳菜摘、石原海といった新進気鋭の女性作家5人が紹介されている。会期は10月29日まで。
本展の主催となるNational Museum of Women in the
Arts(NMWA)はアメリカに発足した組織。女性アーティストたちに光を当てることで、より公平なリーダーシップ、コミュニティへの関与など、社会が前進することを目指している。この日本版とも言えるNWMA
Japanが昨年春に発足し、24年にワシントンのNMWAで行われるグループ展「Women to
Watch」に、日本から初めて女性アーティストの作品を出展するために活動している。本展はその前段階に当たるもので、出展作品のうち1点が「Women to
Watch」に選出される予定だ。
渡辺志桜里は、外来種や純血種、絶滅種など、生物環境と人間社会の摩擦をテーマに制作を行うアーティスト。本展では、循環する生態系《サンルーム》(2017)を展示し、人類がいなくなったあとも続く流動的な世界を示すとともに、人間社会の倫理によって生物環境が管理される状況を批評的なまなざしで表現している。人間社会によってつくり出された存在について問う新作《Red》(2022)、《Blue》(2022)もあわせて展示されている。
首都圏近郊の工業地帯に生まれ、開発途上にあるインフラの構造物が林立するなかで育った藤倉麻子は、その原風景をもとに3DCGアニメーションによる極彩色の空間イメージを制作。新作の《ずば抜けた看板の光》(2022)、《Ideal
Wall, Actual Brick》(2022)では、都市化する環境をある種の楽園のように描き、その想像力を持って介入していくものだ。
バイオアートやスペキュラティヴ・デザインなどの手法で、実験的な作品を提示する長谷川愛。有性生殖や単為生殖など、人間にとって未来のテクノロジーを使いこなすサメのメスに憧れを抱いた長谷川は、その存在に近づくべくサメのオスを魅惑する香水を企業と共同で探求、発表した。展示作品《HUMAN×SHARK》(2017)は、人間の女性がもっと強く生きやすくなるようにという願いが込められたプロジェクトであるという。
同ビル内の地下1階(B146)に展示されるのは青柳菜摘の《家で待つ君のための暦物語》(2021)だ。青柳はとあるクラウドサービスにコロナ禍における日々の物語を記録。AIに管理され、日々の生活のすべてがネット上にログとして残る現代において、個とは何か、人間的な営みとは何か、を問いかける。
隣接するビルの10階(YAU1003・1004)に展示されているのは石原海による《忘却の先駆者》(2018)と新作《Crisis》(2022)だ。《忘却の先駆者》では、オリンピックの感動を忘れないために、記憶を失わなくなる薬の服用が義務付けられた社会における、若年性アルツハイマーの母親と娘の姿を描く。いっぽうの《Crisis》は、否応なく変化する体に関する独白をとらえたもの。ともに身体制御や所有、自由をテーマに、パーソナルな物語として描かれている。
本展キュレーターである藪前は、ステートメントのなかで本展について以下のように語っている。「90年代より慢性的に続く景気停滞のなかで成長し、活動してきた日本の若手作家たちにとって、『未来のヴィジョン』という言葉は、かつてこの国の成長期に人々が夢見ていたような、希望だけに満ちたものではありません。本展において(Women
to Watch
への)日本の推薦アーティストたちが提示するのは、過去への憧憬や、進化や成長の痛みを伴う、現代の社会への抵抗としての『未来のヴィジョン』です」(一部抜粋)。