あなたの子どもに「ピアノのコンクール」は本当に必要?…日本人のコンクールに対する「異常な信仰心」
なぜ日本人はコンクールが好きなのか? コンクールにこだわってピアノ学習を進めることが、はたして本当に子どものためになっているのか? オランダで演奏活動を行う傍ら、小さな子どもにピアノを教えている千原ビットナーさとみさんによる寄稿。
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日本人はクラシック音楽演奏系のコンクールが大好きです。昨年、日本人が入賞したショパンコンクールも日本では相当盛り上がり、連日のようにニュースで報道されました。ただ、ヨーロッパではごく普通のニュースのひとつでした。
日本にはピアノ演奏のコンクールだけで200以上もあると言われていますが、そもそもヨーロッパでは、そんなに多くありません。こうしたことからも、日本人が「いかにコンクール好きであるか」ということがうかがえます。
筆者はオランダで演奏活動を行う傍ら、小さな子どもたちにピアノを教えています。
生徒の親御さんの中には日本から赴任してきて、一時的にオランダに在住している人もいます。熱心な方からは「オランダには子どもが受けられるコンクールはないのですか?」と聞かれることもあり、少々ビックリします。
というのも、子どもが受けることのできるピアノのコンクールはもちろんありますが、筆者が即座に名前が思いつくのは5本の指に収まる程度です。そもそもオランダでは、「子どもにピアノコンクールを受けさせ、そのために毎日カリカリ練習させる」ことが一般的ではないのです。
たとえば、オランダはユニセフの子どもの幸福度ランキングで、過去に何度も1位になりました。オランダ人の自由で子どもの意志を尊重する子育てに対する姿勢が、ピアノなどの習い事へのスタンスに反映しているのかもしれません。
また、演奏会の「宣伝」の仕方を1つとっても、日本とオランダとでは、かなり違います。
日本だと、堂々と「○○コンクール優勝! ○○コンクール入賞!」と、奏者の名前とコンクールの入賞歴をポスターに印刷し、賞歴を水戸黄門の印籠のように扱っています。
しかし、オランダでそのような宣伝がされている演奏会を見たことがありません。クラシック音楽好きの筆者のお客さんと話していても、みなさんコンクール歴はあまり気にならないようです。それよりも、自分がその奏者の演奏が好きかどうかのほうが重要だということです。
もちろん、コンクールの入賞者はそれぞれ大変な努力をされた方ばかりです。日本人が海外のコンクールで入賞した話を聞くと胸が躍ります。
その一方で、コンクールの物差しに頼らず、自分で聴いて好きかどうかを堂々と言えるように審美眼を磨くことを楽しみにしている方が、日本よりオランダのほうが多いというのが筆者の実感です。