名料亭「招福楼」100歳の大主人の「おもてなし」とは?魅了される料理と空間の全貌
撮影=高嶋克郎 取材・文=大喜多明子 編集=吉岡尚美 婦人画報2022年8月号
<写真>鱧と蓮根、ひすい茄子の5代目の煮物椀。直前に外側を削った鰹節、上質の昆布で極上の透明な出汁に。
料理の素材や味わい、季節感はもちろんのこと、器、しつらい、空間、庭園、お客を迎える心遣いに至るまで、和食の文化というものを総合的に創造し表現しているのが料亭。なかでも一目置かれる滋賀・八日市の「招福楼」は、明治初期にお茶屋として始まり、太平洋戦争後、3代目で現大主人の中村秀太郎さんが料理店に転換、今日のように人々が憧れ、敬う名料亭の姿を築いてきました。現在は本店と、東京・丸の内のビル内に座敷と洋室を有する東京店があり、それぞれに趣向を凝らしたひと皿で風雅な料亭の世界へと誘ってくれます。
<写真>大主人宅の仏間にて、右から3代目中村秀太郎さん(100歳)、4代目中村成実さん(67歳)、5代目中村嘉宏さん(31歳)。空間は禅宗の塔頭になぞらえ、大主人自ら考案した。
たとえば季節の八寸は、本店は目にも涼しげな氷室膳で旬の喜びを情趣豊かに表現。一方、東京店では、日本酒にぴったりの夏の旬味が舌を楽しませてくれます。細やかな季節の風情、日本文化の粋を伝える料亭として、その伝統と格式を守っています。
<写真>氷を敷き涼風を感じさせる氷室膳。岩茸のわさび和えを巻いた近江牛イチボの蒸し煮、クリームチーズの西京味噌漬、鮑の軟らか煮、万願寺青唐、ガラスの器にはとろとろ胡麻豆腐。もっちりとした食感、中にはうにが隠されている。「招福楼 本店」より。