「芸術にはメッセージがある」 第33回世界文化賞個別懇談会、受賞者たちが創作意欲語る
絵画部門のジュリオ・パオリーニさん(81)は、約60年前に美術家の道に進み始めた当初、日本の前衛美術集団「具体」に触発されたことを明かし、「日本と西洋は文化的な座標軸が違うが、それでも今回受賞したということは、人々の思考はどこかで交わるという信頼につながると思う」と話した。
彫刻部門のアイ・ウェイウェイさん(65)は戦争や難民問題、環境問題など世界が直面する課題について言及。「芸術は何のためにあるのかと自問しなければならない」と述べた上で、「芸術には常にメッセージがあり、発し続けなければならない。芸術は人の深いところにある哲学的思想、倫理的信条と結びついている」と語りかけた。
「まちの新しい財産をつくるという感じで、周りの人たちに愛される、受け入れられるような建築になるのが最高だ」。建築部門の建築家ユニット「SANAA」の西沢立衛(りゅうえ)さん(56)は、近く一般公開されるオーストラリアの美術館増築プロジェクトなど新たな作品に、こう期待を込めた。妹島(せじま)和世さん(65)も建築と地域の関係について、ユニットの代表作「金沢21世紀美術館」(平成16年)を例に挙げて「どんどん使い方を発展させてくれることが、時間とともに受け入れてもらえるということ」と話した。
音楽部門のクリスチャン・ツィメルマンさん(65)は、完成度の高い演奏と、そのために自ら調律やピアノ制作まですることでも知られるが「私が求めているのは美しい音ではなく、作曲家が求めた音、音楽にもっとも適切な音だ。その意味では私の98%は芸術家ではなく職人だといえる。そして、素晴らしい日本のホールのおかげで、それを成し遂げられたレコーディングもある。日本に感謝している」と述べた。
ロードムービーの第一人者として知られる演劇・映像部門のヴィム・ヴェンダースさん(77)は「道は人生のメタファー(暗喩)でもある。つまり人生そのものが一つの道であり、道が心のあり方も表していると思う」と語った。
また自身が信奉する小津安二郎監督の「東京物語」を初めて見たときの印象について「パラダイス。これ以上のものはありえない、と思いながら見ていた。その感覚は今でも変わっていない」と振り返った。