伝説の画商がセレクトしたピカソ、マティス、ジャコメッティらの傑作が上野にやってくる。
ハインツ・ベルクグリューンは20世紀初頭の近代美術を専門に活躍したアートディーラー。1914年にベルリンで生まれ、戦後パリで画廊を開く。彼はピカソやマティスらの作品を扱うだけでなく、彼らと精神的な交流を深めた。ベルクグリューンは顧客に販売する作品と手元に残しておくべき作品を慎重に見極め、個性的なコレクションを築き上げた。コレクションのうち主要なものはドイツ政府が購入、現在は〈ベルリン国立ベルクグリューン美術館〉で公開されている。『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』では、画商として日々、多くの作品に触れるなか彼が厳選したコレクションから97点が見られる。
ハイライトは日本初公開作品も多いピカソだ。ベルクグリューンが初めて入手したピカソ作品は、ピカソの友人だった詩人エリュアールから譲られた《眠る男》だった。ピカソは「青の時代」、ジョルジュ・ブラックとの対話から生まれたキュビスム、新古典主義、シュルレアリスムから刺激を受けた変形した人体、多様なスタイルで描かれた女性たちなど、次々と作風を変える。この展覧会では出品作の約半数を占めるピカソ作品から彼の真の姿に迫る。
ベルクグリューンにとってピカソはリスペクトの対象だったが、パウル・クレーには深い共感を覚えていた。この展覧会では第一次世界大戦の終わりから、クレーがバウハウスに在籍していた頃のものを中心に紹介する。キュビスムの影響など、ピカソと対比させるのも面白い。
今では人気の高いマティスの切り紙絵だが、発表当初はさほど注目されなかった。その魅力を真っ先にフィーチャーしたのもベルクグリューンだった。マティスの切り紙絵だけで構成された展覧会を最初に開いたのは彼の画廊だったのだ。もう晩年に差し掛かっていたマティスだけれど、ベルクグリューンの後押しに勇気づけられたことだろう。