nendoの科学的アプローチで可視化される、樂焼の本質とは?
“吉左衞門X”とは、樂焼の名家・樂家の先代である樂直入が2009年から行っているコラボレーション展だ。13回目となる今回は佐藤オオキ率いる〈nendo〉との協働で、5つのアプローチから樂茶碗の表情や思想を形にした。
まず出会うのが宙に浮かび、くるくると回る樂茶碗《chuwan》。磁石で展示台から7mm浮かせ、微弱な風を送り、回転させている。背面からの強い光で樂焼のシルエットや地肌の凹凸が浮かび上がり、手捏ねで成形される樂焼ならではの不均一なフォルムを強調している。
豊かな彩りで目を引くのが、そのフォルムに沿って、じんわりと色がにじむ茶碗たち。
《junwan -chroma-》は素焼きの状態の器に色素を染み込ませ、分離するさまを模様にした作品。2022年初頭、清水寺と二条城の2か所で行われた展覧会『NENDO SEES KYOTO』で発表された《junwan》の発展形だ。
《junwan -redox-》は素焼きの器に金属イオン水溶液を染み込ませ、焼成したもの。「従来、器の色は表面に乗せるもの。染み込ませる技術は存在しなかったので、1年ほど実験を繰り返して実現させた」と佐藤が述べる労作だ。
形の奥深さに気づかせてくれるのが、茶碗に潜む特徴を現代の技術で抜き出した作品群。
《jihada》は「日常性が感じられる空間に溶け込む茶碗の見せ方を」という樂直入の問いかけから着想されたインスタレーションだ。茶碗の表面を3Dスキャンし拡大縮小して“地肌”を複製し、食器や棚などの日用品をかたどったオブジェに貼り付けている。
《michiwan》は茶碗の内側を3Dスキャンし透明なアクリルで再現したもの。樂直入が「茶碗が抱える虚の空間。精神的で哲学的なもの」と述べる、普段はベールに包まれた茶碗の内部空間が、あたかもレントゲン写真のように可視化されている。