華やかなスペインの裏にある「内戦の暗い影」を半世紀前に写し取っていた写真家・高橋宣之〈dot.〉
1947年、高知県生まれの高橋宣之さんは半世紀前、スペイン・サラゴサ大学で美術史を学び、72年に帰国後、写真家として本格的に活動を始めた。
留学時代に撮影した写真を見せてもらうと、軽い衝撃を受けた。「あの華やかなスペインにこんな時代があったのか」と思った。そこに写っていたのは「スペインの奇跡」と呼ばれた経済発展以前の人々の素朴な生活だった。
当時、高橋さんはスペインの詩人アントニオ・マチャドの詩集を持って旅をした。
「詩の情感を写真に入れたいという気持ちが心の奥底にあったと思います。1泊500円くらいの安いホテルに泊まって、朝起きて、窓を開けると、路地裏でお母さんが子どもを叱っていたりする。そんな風景を写した作品です」
自衛隊からスペインへ
高橋さんのスペイン留学のきっかけは意外なものだった。
「自衛隊のミサイル演習でアメリカに訪れたとき、よくメキシコに行ったんです。覚えたてのスペイン語の単語でおじいちゃんに話しかけると、スペイン語が返ってきた。そんなこともあって、スペイン語にすごく親しみを感じていた」
高橋さんは少年時代、空にあこがれ、高校卒業後は航空自衛隊に入隊。配属されたのは九州北部にあるミサイル部隊だった。米国製ミサイルの操作マニュアルは英語で記され、任務中の会話もすべて英語だった。
ミサイルの実射演習は米国で行われた。入間基地(埼玉県)から胴体に窓のない輸送機に乗り込み、アラスカを経由して、再びハッチが開くと、いきなり砂漠の基地の風景が現れた。
広大な演習場はメキシコの近くにあり、休暇日には国境を越え、他の隊員とともにオフを楽しんだ。語学に堪能な高橋さんは上官に重宝がられたという。
68年に除隊。その後は高知に戻り、オランダ人牧師のもとでスペイン語の腕を磨いた。
「そのとき、大学の学費が無料になるスペイン政府名誉留学制度を知ったんです。で、応募したら、外務省の選考を通った」