アプロプリエーションはコピーに価値を生み出すのか? リチャード・プリンス「New Portraits」裁判のゆくえ
リチャード・プリンスは、アプロプリエーションの代表的なアーティストとして知られる。「アプロプリエーション」は、既存の素材を意図的に取り込んで自らのアート作品として使用する手法を指す(*1)。この手法が注目を集めたのは1980年代であり、プリンスの有名な作品として、マールボロの広告を再撮影(リフォトグラフ)した「Untitled (cowboy)」シリーズがある。
広告として流通していた視覚的イメージでは写真家の名前が出ることはなく作家性は喪失しているが、プリンスの再撮影によりトリミング、拡大してアート作品として提示されることで写真が本来有していた広告のメッセージ性は排除され、広告となる前の写真本来のイメージが回復される。再撮影によりコンテクスト(文脈)の置き換えが行われている(*2)。
アプロプリエーションでは確信犯的に他人のイメージを取り込むわけだが、当然ながらアート作品に取り込まれる他人のイメージ(取り込まれる写真を撮影した写真家のケースが多い)に関する権利との緊張関係を生むことになる。
2023年5月11日、プリンスの「New Portraits」シリーズをめぐって、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に起こされていた2件の著作権侵害訴訟の判決が出された(*3)。
「New Portraits」シリーズは、Instagramに投稿された写真、コメントやプリンス自身のInstagramアカウントに投稿した他人の写真をわずかに加工し、自身でもコメントを加え、iPhoneでスクリーンショットしたイメージをキャンバスにインクジェット印刷したシリーズである。
この訴訟の原告となったのは、いずれもプロの写真家であるドナルド・グラハムとエリック・マクナットで、対象は次の2作品(《Portrait of Rastajay92》と《Portrait of Kim Gordon》)である。
《Portrait of Rastajay92》は、2014年にニューヨークのガゴシアン・ギャラリーで、《Portrait of Kim Gordon》は、2015年に東京のBLUM & POEで展示された。
そして被告となったプリンスは、作品への写真の利用はフェア・ユース(公正な利用)だと主張した。