栃木の「学問的」魅力 宇都宮大教授らがガイド出版 専門分野の視点で
地元の大学教員らが学問的視点から地域の特徴を掘り下げる「大学的地域ガイド」は、2009年の奈良版を皮切りに全国や世界に広がっており、栃木版は今回が初めて。21年6月、昭和堂から松村教授に出版の提案があり、編集が始まった。
編者は松村教授の他、宇都宮大地域デザイン科学部講師の鈴木富之氏▽駒沢大文学部准教授の西山弘泰氏▽帝京大経済学部准教授の丹羽孝仁氏▽同大文学部講師の渡辺瑛季氏--の計5人。執筆には宇都宮大(宇都宮市)や宇都宮共和大(同)、帝京大(同)などに在籍する県内外の専門家や、博物館やシンクタンクの研究者ら計28人が参加し、今年3月末に出版された。
執筆者それぞれの視点から栃木を描いた19本の記事とコラム16本を3部に分けて掲載した。第1部「いしずえを照らす-とちぎの自然と歴史」は、県の骨格となる地形や気候、江戸時代の宇都宮や二宮尊徳について記している。第2部は「いろどりを映す-とちぎの魅力」。産業や食文化などを解説し、観光ガイドにもなっている。宇都宮市のギョーザや大谷石、栃木市の「蔵の街」などを取り上げた。
第3部「しるべを刻む-これからのとちぎ」では、地方都市の空き家問題、宇都宮市と芳賀町が整備を進める次世代型路面電車(LRT)の建設、渡良瀬遊水地と観光などをまとめている。松村教授は「地方のいろいろな問題に前向きに取り組んでいる人たちを取り上げた」と解説する。
コラムも充実している。酪農県である栃木の牧場や、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されている那須烏山市の山あげ祭などを紹介している他、日光市のゲストハウスでの外国人旅行者の受け入れ態勢についても書かれている。松村教授は「本文は長めに専門的なことも書いてあるが、コラムは短いので楽しく読めると思う」と話す。
松村教授は日ごろ学生たちから栃木について「不満はないけれど、何もないよね」と聞くことが多いという。「地方の人は自分の地域を持ち上げない。また『宇都宮ならギョーザ』など、一面的にしか語れないのはさみしい」と話し、「この本が地域に関心を持つきっかけになってほしい」と望む。そして「関心を持ったら足を運んで、今起きていることや取り組まれていることを観察してほしい」と期待する。A5判376ページで2400円(税別)。県内の書店やインターネットで購入できる。