「悪態の言葉はいくらでも出てくる」 「極楽征夷大将軍」で直木賞に決まった垣根涼介さんが会見
デビュー時から執筆してきた現代小説では何度も受賞経験があるが、10年前から書き始めた歴史小説では初受賞。「(直木賞含め)5回くらい候補にあげてもらったが、受賞にはいたらず。今回もどうかなと思っていたが、6度目でこういう壇上にいることができホッとしています」と笑顔を見せた。
直木賞選考委員の浅田次郎氏からは「愚直なほどまじめな長編」という講評だった。「ボクが一生懸命やるのは当たり前。読者にはおもしろ、おかしく笑って読んでくれたらいい。読み終わったあと、何かが残ってくれたらいいと書いている」。一方で、文中では足利尊氏のボンクラぶりを描写するフレーズが頻出することに「自身がふだんから口が悪い。悪態(を表す言葉)はいくらでも出てくる」と笑った。
文芸誌への2年半の連載は、400字詰め原稿用紙換算で1700枚に達した。単行本1冊に収めるため1350枚くらいに削ったことが最もつらかった作業というが、「そのつらさも、報われたかな」。
足利尊氏を弟の直義(ただよし)と、側近武将である高師直(こうのもろなお)の視点から描く手法を用いた。「主人公の尊氏は、内面を感じたまま言う人。文字で表現すると、エンタメ(小説)の枠からでてしまう。常識的な視点で、非常識な人間を〝この人どうなのよ〟とみる構図を取ることで、エンタメにできた」と小説技法を披露した垣根さん。
「いろんな方々の後押しがあり受賞の運びになった。それをわかったうえで、きょうはたまたまボクの日でもあったのかな」と、最後は主役らしく胸を張った。(伊藤洋一)