「施設の必要性を認知するために」。休館中のヴァンジ彫刻庭園美術館で特別企画が開催中
同館は、静岡県東部の文化芸術の拠点として、開館より20年間にわたり様々な活動を行っていた。しかしながら、新型コロナウイルスの影響で経営難に陥り、これまでの活動を次世代につなぐことを目的に、
2021年10月より静岡県に無償譲渡を含めた支援を求めている。2023年4月の時点においても、県への譲渡を含めた要否については結論にいたっていない。
現在開催されている特別企画「彫刻庭園美術館を明日につなげる-“ユニバーサル”な鑑賞体験の場としての可能性」は、同館が改めて施設の必要性を再認識してもらう機会を提示するために企画したものだ。これまで、同館が取り組んできた活動を紹介するとともに、今後の活用可能性を提案するため、予約制の小展示やワークショップ、外部講師によるトークイベントを開催している。
本企画が「ユニバーサル」を標榜するのは、同館が創設以来「自然と彫刻が融合し、そこを訪れる誰もが幸せな気持ちになる、みんなの広場に育ってほしい」というビジョンを持ち、来館するすべての人が居心地よくすごせる「ユニバーサル」な庭園美術館を目指してきたからだ。近年では視覚障害のある来館者に向けた音声ナビゲーションアプリ「ナビレンズ」の導入や、「ふれる作品鑑賞」などを積極的に実施している。
すでに5月13日より4回にわたり開催されてきた小展示は、同館がこれまで行なってきた視覚に障害のある人々に向けた取り組みや「ふれる鑑賞」を取り上げるものだ。本展示の最終回は5月27日に開催される(キャンセル待ち受付中)。
加えて庭園では、6月3日に20年にわたり同館の庭園の指導に携わってきた園芸家の金子明人によるガーデンツアーの開催と、視覚に障害のある人々を対象とした、触覚や嗅覚などを用いて庭園を散策するワークショップを開催(現在は視覚に障害のある人々が対象のワークショップのみ募集中)。なお、庭園には250品種以上のクレマチスと、約100品種のバラが植栽されており、企画を実施する5月から6月は多くの品種が花開くという。
加えて、外部講師の登壇イベント「鑑賞・観光・感動 ―彫刻庭園美術館のユニバーサルな可能性について考える2日間」も5月28日と6月4日に実施する。28日は「広瀬浩二郎×柳田邦男 “ユニバーサル”な鑑賞体験の場としての可能性」を、4日は「ミュージアム×ツーリズム ユニバーサルツーリズムの拠点としての可能性」として一井崇、久保田美穂子、広瀬浩二郎を呼び、同館の今後の活用可能性について検討する。なお、2つのイベントは三島市社会福祉会館と三島市生涯学習センターで開催される。
企画はすべて「完全予約制」となっており、これまでの開館状態とは異なり、庭園管理を最小限に留めている。また、開催にあたり、運営費確保のため施設利用料を支払うことになる。
ヴァンジ彫刻庭園美術館の現在の状況は楽観視できるものではないが、いっぽうでこうした試みを経ることで美術館の存在意義や活用方法をより具体的に考える契機となるだろう。地域にとって美術館とは何か、それをいかに活用していくのか、市民とともに建設的に考える良い機会となることが望まれる。