前代未聞 ミレーの「種をまく人」オリジナルとクローンを同時展示 山梨県立美術館
■東京芸術大が開発
15~27日の日程で開催されるコレクション企画展「クローン文化財 ミレーの《種をまく人》」では、ミレーの代表作で同館のミレーコレクションの象徴ともいえる「種をまく人」のオリジナルと、クローン文化財を同じコーナーに展示する。
クローン文化財とは、東京芸術大学が文化継承のために取り組んでいる極めて精巧な芸術作品の複製。高精細プリンターなど最新のテクノロジーと専門的な知見、伝統美術の職人芸を組み合わせる画期的な方法を使って、文化財を複製するプロジェクトだ。
絵画だけでなく彫刻、仏像、巻物、祭壇なども精緻に複製する。科学だけでは捉えられない作者の真意を理解する審美眼なども加え、よりオリジナルに近い臨場感を出している。
■凹凸をデジタル印刷
今回の「種をまく人」では最新鋭の技術を活用した。オリジナル作品の表面の凸凹を高精細スキャナーで計測。そのデータを使って、白い絵の具をデジタル印刷し、オリジナルと同じ凹凸となる下地を作った。そこに超精細画像データを元に印刷し、さらに、人手による彩色などの調整作業によってクローンを作り上げた。
絵筆の跡や、油絵では一般的な絵の具による盛り上げ、厚みなども表現した。これまで凹凸は手作業で表現していたが、今回は3Dデジタル技術を取り入れ、より本物に近づけたという。さらに、額縁も3Dプリンターで出力したパーツを元に製作し、本物の質感を再現した。
実際に、オリジナルとクローン文化財の「種をまく人」を見比べても、素人目にはわからない。違いがはっきりしているのは、オリジナルの表面はガラス張りだが、クローン文化財はガラス張りではないということぐらい。
プロジェクトメンバーの東京芸大COI拠点の小俣英彦特任准教授が「ルーペを使えば違いは分かるが、普通に鑑賞するだけでは、専門家でもどちらがオリジナルか、判別できないこともあるのではないか」と説明するほどの仕上がりだ。
■デジタル化活用の一環
クローン文化財は、文化継承という大きな目的があるもののあくまで複製。オリジナルを保有する美術館が、複製を同時に展示することは異例だ。専門家によれば「本物を鑑賞したいからこそ、愛好家が保有している美術館に足を運ぶのが一般的。基本的には本物を保有する美術館がオリジナルと複製を同時に展示する意味はない」という。
これについて同館の太田智子学芸員は「現在進めているミレーの作品の超高精細画像化の活用事業の一環」と説明する。すでに「種をまく人」以外のミレー作品数点で高精細データ化を終えており、デジタル化後の活用を探っている。
今回の「種をまく人」のクローン文化財は同館に寄託される。15日からの企画展では計画されてはいないが、目が不自由な人にクローン文化財を手で触ってもらいミレー作品を実感してもらうといった活用や、教育、文化活動の一環として、外部展示するなどの可能性もあるという。
ただ同館では、現時点では他のミレー作品をクローン文化財にすることは決めていない。今回はオリジナルとクローンの違いを実際に見比べる貴重な機会になるかもしれない。(平尾孝)