歴史や文化、ジェンダー問題へと対話をもたらすウェンデリン・ファン・オルデンボルフが日本初個展
1962年オランダ ロッテルダム生まれ、現在はベルリンを拠点とするウェンデリン・ファン・オルデンボルフ。2017年ヴェネチア・ビエンナーレのオランダ館の代表を務めるなど、オランダの現代美術を代表するアーティストとして、20年以上に渡り映像作品や映像インスタレーションを発表してきた。
他者との共同作業を通じて人々の関係を形成すると同時に、それによって形づくられるものとして試行を重ね、シナリオを設定しない撮影にキャストやクルーとして参加する人々が現れるのが、オルデンボルフ作品の大きな特徴だ。撮影の場という設えられた状況で、あるテーマについて人々が対話する過程で発露する主観性や視座、関係性を捉え、鑑賞者の思考との交差を指向している。
本展では、代表的な映像作品から新作までの6点を公開。
初期作からは、17世紀のオランダ領ブラジルで総督を務めたヨハン・マウリッツの知られざる統治をめぐり、マウリッツの手紙などを読み上げながら議論する『マウリッツ・スクリプト』(2006)や、オランダによる植民地政策にラジオがもたらした影響についての対話と、インドネシア独立運動家スワルディ・スルヤニングラットの手記「私がオランダ人であったなら」を読み上げる声が交わる『偽りなき響き』(2008)の2点が紹介される。
また、ポーランドの映画産業に関わる女性たちと制作した『オブサダ』(2021)では、芸術表現の場でも未だ解消されないジェンダー不平等の問題と、これからの変化に対する希望について言葉を交わしていく。オルデンボルフの作品において、ジェンダー問題は様々な角度から扱われてきたが、同年にアーネム博物館で撮影された『ヒア』もその一つだ。オランダで音楽活動や文筆活動を行う若い女性たちが紡ぐ、異種混交的なルーツや性についての表現が繊細に交差する。
なお本展を機に、国内で新作を制作。1920年代から1940年代にかけて活躍した女性の文筆家たちが、女性の社会的地位や性愛、戦争といった問題に切り込んだテキストを取り上げ、それらが今日の社会のどのような側面を映し出すかを探ったという。オルデンボルフは「支配的な言説やイメージからいかに逸脱しうるのか」という問いを展示空間の構成においても重ねており、本展をフレームを定めることのない舞台セットのようなインスタレーションとして構成する。会期は2023年2月19日(日)まで。
Text:Akane Naniwa