「藤井聡太竜王には威厳があった」…広瀬章人八段が見せたノーサイド精神、竜王戦第6局までの激闘を父がねぎらう
第6局は角換わりの戦型となった。今回の七番勝負で広瀬八段は、序盤から趣向を凝らすことが多かったが、本局は先手番の藤井竜王の駒組みに追随し、相手の土俵で戦った。「互角の戦い」とみられていた局面が大きく動いたのは、2日目の封じ手開封直後からだった。
広瀬八段の封じ手は、先手の飛車を追う△3八銀(第1図)だった。藤井竜王は10分の考慮で▲4六飛と縦に逃げ、控室では「えー」と声があがった。飛車を捕獲されてしまうので、損な手とみられていた。藤井竜王は「▲5九飛を掘り下げるべきでした」と局後に語ったが、実戦は飛車を犠牲にしてでも、 斬(き)り合いに活路を見いだす、勇敢な藤井竜王の棋風どおりの方針だった。
▲4六飛に広瀬八段は「▲5九飛を本線に読み進めていて、飛車を縦に逃げる手はあまり考えませんでした。飛車を手にすればなんとかなると、軽く考えすぎました」と明かし、意表をつかれた様子だった。控室のモニターで▲4六飛を見た立会人の藤井猛九段。竜王3連覇の実績がある藤井九段は「2日目の再開直後は、読み抜けや勝手読みが起きやすい。ここで広瀬八段は1時間くらい腰を落として考えた方がいいです」と経験に基づいて話していた。
広瀬八段は18分の消費で△3七銀と指した。これがまずかった。以下、▲5四香△4六銀成▲2六角(第2図)と進み、角打ちが絶妙な攻防手となって藤井竜王が優位に立った。感想戦で、▲4六飛に対して△4四香(香を犠牲に実戦の▲2六角の筋を消す狙い)を藤井竜王は指摘し、この順は「千日手」になるという。「えっ」と広瀬八段は声を出した。