日本アニメの形成期にみる「戦時」。制作背景をベトナム戦争から読み直す
前回はマンガなどで表現された閉塞的な時代の“空気”を取り上げたが、第4回は今や日本を代表するコンテンツとなったアニメの形成期に光を当てる。最長寿TVアニメ『サザエさん』の放映が始まった1969年、まだ沖縄はアメリカ占領下にあった。いっぽうで、その頃の本土は好景気を謳歌し、高品質の「日本アニメ」が次々と作られた。ほかの東アジアの国・地域が「戦時」にあったこの時代にアニメ産業はどのような制作システムに支えられ、急速に規模を拡大できたのか。その背景をベトナム戦争から読み解く。【Tokyo Art Beat】
2021年に公開された庵野秀明(1960~)の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』と、90年代にテレビ放送された『新世紀エヴァンゲリオン』(1995~1996)のあいだには25年の時間が流れている。ギネス記録にもなっている『サザエさん』は50年以上ものあいだ放送を続けているが、「25年」や「50年」という時間は想像するのにいかにも厄介な長さである(*1)。
『サザエさん』のテレビ放送がスタートした1969年、沖縄はまだアメリカの占領統治下で、日本に「復帰」していない。長谷川町子(1920~1992)が福岡の新聞に『サザエさん』の連載を始めたのは1946年だが、この年の衆議院選挙に沖縄は参加できなかった。長谷川が描きおろしたロールフィルム式幻灯版の『サザエさん』(*3)が発売された1948年には母子手帳の配布が始まっているが、沖縄での配布は1961年まで待たなければならない。
日本国憲法が制定されてからも、沖縄は「戦後の変化」から意図的に排除されてきた。沖縄が国政選挙に参加するのは──沖縄の女性が初めて国政選挙の投票権を持つのは──1970年になってのことだ(*4)。