【書評】ブラピ主演映画の原作となった日本のベストセラー小説:伊坂幸太郎著『マリアビートル』
9月に公開されたブラッド・ピット主演の映画『ブレット・トレイン』の原作となったのが、日本で大人気のエンタメ作家・伊坂幸太郎の『マリアビートル』だ。物語は、主人公が新幹線の車中で次々と殺し屋に遭遇するという展開。映画では、ストーリーや登場人物の設定は原作をほぼ踏襲しているが、おもむきはかなり異なっている。それぞれの違いを楽しむのもまた一興である。
ブラピ演じる主人公のレディバグ(てんとう虫の意・原作では天道虫)は、久々に仕事復帰した殺し屋である。格闘技に秀でているが、なぜか、いつも仕事中に不運にみまわれてしまうというツキのない男だ。舞台は、東京発京都行きの新幹線を思わせる弾丸列車の車中となる。彼が請け負った仕事は、至極簡単なもので、東京駅で列車に乗り込み、指定されたブリーフケースを盗んで次の品川駅で降りることだった。
ところが、首尾よくケースを奪ったものの、下車しようとした瞬間、乗り込んできたメキシコ人の殺し屋に阻まれ、車内で格闘する羽目に。さらにはケースの持ち主である凄腕の殺し屋コンビ、タンジェリン(原作では蜜柑)とレモン(同檸檬)に追われ、なんとか数少ない停車駅で下車しようとするものの、そのたびにアンラッキーないざこざにまきこまれ、降りようにも降りられない。
この列車には、他にもそれぞれに依頼を受けた殺し屋が複数乗り込んでいる。タンジェリンとレモンは、暗黒組織の大ボスからの指示で、誘拐された彼の息子を奪還、身代金の入ったケースも取り戻し、息子を連れて大ボスの待つ京都へ向かうところだった。さらには中年の殺し屋キムラ(原作では木村)も、謎の少女とともに車内にいた。
キムラは、息子を人質に取られているために、少女の思うままに操られ、ある人物の殺人を請け負わざるをえない。大ボスの息子の命を狙う、毒使いの殺し屋も機会をうかがっていた。そうした彼らが、どうした因縁なのか、疾走する弾丸列車内で相まみえるのである。そこにこの物語の面白味がある。