色とテクスチュアへのこだわりを徹底するペインター・かつのぶ。小山登美夫ギャラリー天王洲で個展開幕
CREATIVE MIND(ACM)。昨年開催した公募展「ART DEMOCRACY INCLUSIVE ART FEST
2021」でグランプリを受賞したかつのぶの、2015年から2022年までに手がけた8点のペインティング作品を集めた個展が、小山登美夫ギャラリー天王洲で行われている。
2006年、かつのぶは14歳で美術教室に通いはじめたことをきっかけに、自閉症や知的障がいのある人を対象とする東大阪市のアトリエ「ライプハウス」で制作活動を続けている。黄色と青の絵具を混ぜて緑色になる様子を見せると、その様子を凝視し、色と色を混ぜることで生まれる新たな色への興味に導かれて絵を描くようになったかつのぶ。現在、色づくりにこだわり真摯な姿勢でキャンバスに向き合い、数点を並行して描きながら1点の完成には1年近くの時間をかけるという。単色で塗りつぶした面で構成された作品のように見えるが、じつは多くの色の塗り重ねの結果として画面が生まれており、その奥に見える筆致からは丁寧な作業の痕跡が感じられる。
その作業の丁寧な様子は、曲線を駆使した作品からも読み取れる。塗り分けられた各色のパートは、離れた位置からだと横方向に絵具を塗りつけていったように見えるが、実際には細かく縦方向に塗る作業を繰り返し、その結果として色が面となり、色の境界部分に盛り上がりが生まれていることがわかる。またキャンバス側面も塗り込め、絵具の「垂れ」も作品に取り込み画面のシェイプづくりに適用するなど、技法が徐々に展開していることも展示を通して見えてくる。
「障がいのある人の作品」という先入観をもって見られてしまうには惜しく、純粋にアートとして評価されるべき多くの作品の存在を知ってほしいという思いで活動を続けているACMの代表理事、杉本志乃はかつのぶの作品から受けた印象を次のように語る。
「まず作品本来の美しさ、優雅な佇まいに目を奪われました。線と面のシンプルな構図で、一見すると硬質な印象を抱くかもしれませんが、実際には手の温かさ、柔らかさが感じられます。この分野の作家は他人からの評価や売れることにあまり関心がなく、純粋に描きたいことを描く強いこだわりがありますが、グリッドから描いた初期作品から曲線を用いた今の作品への変化を知ったとき、作家としての成長と可能性を感じ、ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思いました」。
「ART DEMOCRACY INCLUSIVE ART FEST
2021」で審査員を務めた小山登美夫も、第一印象から作品に魅了されたひとりだ。アウトサイダーアートやアール・ブリュットというジャンルの括りにとらわれることなく、作品そのものを純粋に見たいと考える小山は、前提としての作品との接し方を次のように話す。
「コンセプチュアルな作品を見て、その背景を知ることで腑に落ちたり、グワッと世界が広がることはもちろんあります。しかし、基本的に身体性や感覚を重視する作家への興味の方が大きくて、なぜかというと、そこを基点としないと超えられないものが美術にはあると考えているからです」。
審査時には作品から透明感を感じ、過去の作品への興味も湧いた。実際に見てみると作家への興味はさらに深まったと話す。
「アウトサイダーアートの作品では『この人はこういう絵』というように、ひとつの技法に固執した表現を見ることがよくあります。それはそれで面白いのですが、かつのぶさんの作品を見ると、グリッドを使った作品から徐々に横の線を使うように変わっていき、2022年の作品は、絵具の重力を強調するかのように放物線が生まれているように、かたちや描き方の変遷が見てとれます。ゴッホの10年間を見て、一生の間にどういう変遷があったのかを見たりしますよね。僕はかつのぶさんの表現でそれをしてみたいと思いました」。
言葉にできないアート表現に、ただ魅了される。表現することが生きることとダイレクトに結びついたかつのぶの表現を、展示空間で作品に対峙することで感じてほしい。「理解する」ことだけがアートとの触れ合い方ではないのだと、画面が思い出させてくれるはずだ。