アーティゾン美術館で見る、セザンヌの絵画と2人の写真家によるセッションとは?
「ジャム・セッション」は、〈アーティゾン美術館〉のコンセプトである“創造の体感”を体現する展覧会だ。年に1回のペースで開催しており、2020年の鴻池朋子、2021年の森村泰昌に続き、3回目となる2022年は現代写真家の柴田敏雄と鈴木理策を迎え、展覧会『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画─セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』(以下、『写真と絵画─セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』)を開催している。
1949年生まれの柴田は、題材にダムや橋といった自然の中の人工的構造物を選び、絵画との関係を意識してその形態を単純化しつつ、主要なモチーフを浮かび上がらせることで鑑賞者の想像力に働きかける写真作品を手がけている。鈴木は1963年生まれ。一貫して「見ること」をテーマに据え、サント゠ヴィクトワール山、セザンヌのアトリエ、桜や雪などを被写体に、カメラという機械の知覚を介して、人間がものを「見ること」への問題意識を提示してきた。
『写真と絵画─セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』では、そんな2人の作品を絵画とともに展示することで、現代の写真作品と絵画の関係性を深堀していく。
写真が発明され、普及し始めたのは19世紀にさかのぼる。ちょうどその頃、絵画は印象派をひとつの起点に、従来の伝統的な表現から大きな変革を繰り返した。この動きの背景に、対象を写実的に捉える写真の存在があったことは間違いない。また、写真もその誕生以来、記録としてだけではなく、美術作品としての絵画的な表現が、現在に至るまで模索され続けている。
柴田と鈴木は、写真を選ぶ前は絵画が表現手段だったこと、そして、自然に即しつつ自身の視覚的感覚を表現することを試みたポール・セザンヌが、活動初期より重要な参照の源だったという共通点を持つ。これを受け、同展では、セザンヌの作品を起点に、柴田と鈴木の新作や未発表作品約130点を含む約240点と、石橋財団コレクションの作品約40点、あわせて280点あまりの作品を展示する。
展覧会は6つのセクションで構成され、うち4つのセクションでは、新作をはじめとする両写真家の作品と石橋財団のコレクションとのセッションを展開。ポール・セザンヌのセクション、雪舟のセクションでは、それぞれの作家と、柴田と鈴木の3者が共演を果たす。たとえばポール・セザンヌのセクションでは、セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》(1904~1906頃)をセンターに配し、その左右に、柴田の初期作品やセザンヌのアトリエを撮影した鈴木の作品などを展示する。
セザンヌや雪舟だけではない。柴田作品にはアンリ・マティスやピート・モンドリアン、藤島武二、鈴木作品にはギュスターヴ・クールベやクロード・モネ、ピエール・ボナールなどの絵画の視点を対応させることで、両者がそれぞれ写真を通して提示するものの真髄に迫る。
時空と媒体を超越して実施される、エキサイティングな「ジャム・セッション」は、どんなケミストリーを生み出すのだろうか。この展覧会を体験したあとは、「絵画のような写真」「写真のような絵画」という言葉の意味合いがこれまでとは違って感じられるかもしれない。