テストも暗記もない「教室」で世界について学ぶ。森美術館開館20周年記念展
その20周年記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」が4月19日に開幕した(会期は9月24日まで)。学校で習う教科を入口に現代アートを「未知の世界」に出会う存在と位置づけ、54組のアーティストによる約150もの作品を展示する大規模展だ。同館コレクションをまとまった形で公開しているのも特徴で、展示作品の約6割を占める。企画は同館のキュレーター全員が携わり、片岡真実館長と熊倉晴子アシスタント・キュレーターが主担当を務めた。
企画意図について、片岡はプレス内覧会でこう述べた。
「森美術館は開館以来、現代性と国際性を追求し、現代アートを幅広い層に広げる役割を担ってきた。この20年間に現代アートはグローバル化し、従来の欧米中心でなく、世界各地から発信されるようになった。よく知らなかった国・地域の作品と出会う機会が増え、その背景にある社会や文化を『学ぶ場』として現代美術館をとらえるようになり、それが今回の展示につながった」
最初のセクション「国語」の冒頭を飾るのは、コンセプチュアル・アート運動の先駆者ジョセフ・コスースの《1つと3つのシャベル》(1965)。シャベルの実物と写真、辞書の定義文が壁に並び、その本質を問いかける。本展は、概念を重視したコンセプチュアル・アートを象徴する本作をはじめ、現代美術史の参照点となる重要作品が複数展示されて、見どころのひとつになっている。
続いて、近現代の知識人が使った眼鏡にその文章や楽譜を組み合わせた米田知子の写真シリーズ「見えるものと見えないもののあいだ」(1998~)や、消滅した言語の音声記録を視覚化したスーザン・ヒラーの映像作品などを紹介する。本展のメインビジュアルになったワン・チンソン(王慶松)の《フォロー・ミー》(2003)は、巨大な黒板と教師役を思わせる作家本人を写した大型写真作品。英語と中国語による文言やスローガンで埋め尽くされた黒板は、マクドナルドやナイキなどのロゴも点在し、急速な欧米化を風刺する視点も感じさせる。