ジェネレーティブアート第一人者が語る テクノロジー、ビジネス、アート
そのお陰でプログラミングアーティスト達と親しくなれたのだが、その当時カジュアルに話せた仲間がいまではアートの世界でも堂々たる存在となっている。カナダのジョシュア・デーヴィスはいまではクリスティーズのオークションに出展している。ドイツのマリオ・クリングマンはMoMAやポンピドゥー・センターにも作品を展示している。
デジタル・アート、プログラミング・アートの価値の高まりを肌で感じる昨今、ジェネレーティブ・アート(生成系アート)の分野で世界的第一人者のタイラー・ホッブスを取材する機会を得た。彼は、コンピューターサイエンスを学び、プログラマーを経て、アーティストへと転身した。限定数999のNFT作品「Fidenza」が、1作品あたり1000万円以上の値をつけていることに驚いた方もいるだろう。伝統的なアートとコンピューターサイエンスを体得しているタイラーホッブズの存在が既存のアートと新しいアートの境界を溶かしていく。
東京・虎ノ門でミューラル作品を完成させたタイラー・ホッブスにビジネスとアートの関係、デジタルアートと伝統的アート、アーティストとしてのマーケット価値に対する考えなどを伺った。我々が身近に扱うコンピューターから作品を生み出すタイラーホッブスは、10年後の当たり前を生み出している。彼の言葉から多くのヒントを得てほしい。
■アートとコンピューターサイエンスの融合
まず、彼の認知を一気に広げた作品集「Fidenza」の紹介をしよう。「Fidenza」はタイラー・ホッブスが独自アルゴリズムを用いて作り上げた999限定のNFT作品である。この記事を書いている時点(2023年5月)ではフロアプライスが50ETH超である。つまり最低販売価格が1000万円以上である。
アルゴリズムをベースにしながらもとてもあたたかみを感じる色合い、リズミカルなコンポジションが、タイラーホッブスの生み出すジェネレーティブ・アートの特徴だ。なぜコンピューターから生み出す作品なのに優しさやノスタルジックな印象が得られるのだろうか?タイラー・ホッブスにアーティストになるキッカケ、ジェネレーティブアートを生み出す上で気をつけていることを聞いてみた。
タイラー・ホッブス(以下、ホッブス):若いころから絵を描くのが好きで、アートを学ぶために美術学校に行きたかったのですが、現実的な選択として、父にコンピュータサイエンスの道を薦められ、大学でコンピュータサイエンスの学位を取得しました。学生時代に来日し、盛岡の学会で発表もしました。卒業後、テック・スタートアップで働いてもいたのですが、プログラマーとして働き始めました。ただ余暇にはいつも作品制作をしていました。
25歳くらいの頃、アーティストとして働きたいと強く思い始め、以来、作品制作に時間と努力を費やすようになりました。当時は伝統的な作品を制作しており、たくさんの絵画や立体画を描いていました。影響を受けたアーティストは伝統的な画家たちです。具体的には抽象表現主義者たちで、マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロックなどがそうです。また、アグネス・マーティンは私のお気に入りのアーティストで、ミニマリストのアーティストですが、彼女からの影響も大きいです。