指導者が明かす三つのカギ 桐生高校、華道の強豪たるゆえん
1月中旬、水を打ったように静かな放課後の教室で、真剣な表情の部員たちが次々と花材を花器に生けていた。毎回の作品の出来栄えが大会に出場する「選手」の選考につながるためか独特の緊張感がある。
大会前を除き、部活は毎週月曜日に2時間。1、2年生9人は、外部講師で池坊上毛支部長の西場小杜子さん(73)の講義をまず10分ほど受けてから制作に入る。約30分たった段階で西場さんが一人一人の作品を手直しし、生け方を伝授してゆく。2年生の北村美結さん(17)は「花材の向きに変化を付けたり直立から前方向に配置してみたり、自分が気づかないところを指摘してもらえるので、とても勉強になる」と話す。
西場さんは旧桐生女子高時代から17年間、華道班を指導してきた。全国大会で上位入賞する鍵は何か尋ねると、こう教えてくれた。「テーマの解釈、見る人を楽しませるアイデア、そして生徒、顧問、講師の『やる気』ではないでしょうか」
池坊本部によると、全国大会では3人がリレーして一つの作品を30分で作り、3分間のプレゼンで作品に込めた思いを伝える。審査項目は、作品の出来栄え▽プレゼン▽花材の整理整頓など大会中の所作の3点だ。
日ごろの部活動でも、作品制作だけでなく、各自のプレゼンの時間を取っている。作品の出来栄え5点、プレゼン評価5点の計10点満点で講師や顧問、部員全員で採点するのが通例で、毎回が真剣勝負だ。
その成績や生徒の出場への思いを勘案し、西場さんや顧問が大会に出る3人を選出する。西場さんは「大会を意識した日々の練習が強さにつながっているのかも。その中で選手を決めるのは身を切るような思い。再三悩んだ上で決めている」と明かす。
昨年10月に全国出場が決まってからは約1カ月後の大会に向けて土日を中心に作品制作とプレゼンの特訓を繰り返した。今回のテーマは「Flower of Life」。チーム「乙女桜」は持ち込み花材のニューサイランを人生に見立てて丸く加工し、中心に生けたバラやかすみ草で「命の輝き」を表現し、どの方向から見ても見栄えのする作品に仕上げた。
プレゼン対策も入念だ。テーマについてネーティブの英語教師に解釈を依頼。「命をくれる花」「生きがい」の意味があると教えてもらい、17年の邦画「花戦さ」に登場する初代家元、池坊専好の言葉を引用し、一輪の花であっても命の輝きを伝えてくれると花と向き合う時間の大切さを「生きがい」と伝えた。
920満点中800点を獲得し、4年ぶりの優勝を決めた桐生高だが、2位(京都市立西京高)とは1点差、3位(広島・安田女子高)とは3点差だったことが分かると、3人は手を取り合って目に涙を浮かべたという。
リーダーで2年の加藤あいさん(17)は「たくさん練習してきたが、自分たちの名前が最後まで呼ばれず、先輩たちの優秀な成績を考えると(入賞)圏外にならないか怖かった」と話す。そこには、歴代の好成績を守る重圧と必死に闘っていたチームの心情がうかがえた。