安藤忠雄が設計監修の〈丸福樓〉を甲斐みのりが訪ねました。
最寄りは京阪電鉄・七条駅。鴨川と高瀬川の間に位置する鍵屋町は、昔ながらの町家や商店建築が残り、ゆったりとした時が流れる。そこに1930年に建てられたのが、1889年に花札やかるたの製造を始め、世界的ゲームメーカーへと発展を遂げた任天堂の本社社屋。正面通りから北に向かって3棟が連なり、それぞれ、事務所棟、創業家である山内家の住居棟、倉庫棟として使用されていた。
そこかしこにアールデコ調の装飾が施された鉄筋コンクリート4階建てのビルを設計したのは、京都に建築事務所を構えていた、増岡熊三・田中義光。サンドベージュのタイルを張り巡らせた外壁には、ところどころに幾何学模様の煉瓦や石材が。館内にも大理石やカラフルなタイルが贅沢に用いられ、格子窓のダークグリーンが空間全体を引き締めている。
任天堂の創業家である山内家が大切に守り続けてきた歴史的建物が、リノベーションを経て全18室の高級ホテルへと生まれ変わり、2022年4月に開業を迎えた。〈丸福樓〉という名は、山内家の屋号「丸福」に由来する。プロデュースを手がけるのは、神戸〈オリエンタルホテル〉や奈良〈菊水楼〉を運営する〈Plan・Do・See〉。既存棟2棟はオリジナルのディテールを蘇らせ、新棟は建築家・安藤忠雄により、コンクリート造りの新たな建物が誕生した。
室内の調度品は部屋ごとに趣が異なり、新旧のデザインが過去から未来への物語を携えて重なり合う。既存棟と新棟が融合した「丸福樓スイート」のテラスからは、清水寺など京都の街並みを一望できる。宿泊プランはオールインクルーシブ。レシピ・内装・器・植栽に至るまで、料理家・細川亜衣が監修するレストラン〈carta.〉やラウンジで、京都の旬の食材を使った夕朝食、グラタンやうどんなどの軽食が味わえるのも心嬉しい。