全米初の三つ星レストラン出身シェフが取り組む「熾火(おきび)料理」とは?
さまざまなジャンルの飲食店が入った雑居ビルが建ち並ぶ横浜駅西口。昼夜を問わず、多くの人の往来がある雑踏の一角にあるのが〈SMOKE DOOR〉だ。ホテルエントランスを抜けると空気感ががらりと変わり、喧騒から切り離された落ち着きのあるバーとダイニングスペースが広がる。
こちらのレストランを象徴するのが、ダイニング奥のオープンキッチンに設置された“薪場”。薪火を使い、最古の調理法とも言われる薪火料理に取り組むのが、サンフランシスコの三つ星レストラン〈Saison〉でエグゼクティブスーシェフを務めた、タイラー・バージズ。約200~1200℃という広い温度帯の薪火を熟知し、食材の種類や状態を見極めて火力を調整して巧みに火入れをする。特に重視しているのが“熾火”。薪に着火した炎が収まり、中心部分が真っ赤になった高温状態のことで、遠赤外線の力でムラなく食材に火を通して調理をする。
エグゼクティブシェフのタイラー・バージズは、アメリカで生まれ育ち、著名な星付きの店で経験を重ねてきた。2019年に石川県輪島市で行われた野外レストランイベント「DINING OUT」の料理人として来日したのをきっかけに、日本の食材や文化に魅了され日本移住を決意。「これまでもアメリカで日本の食材や調味料は多く使用してきましたが、日本が持っている食材のパワーやポテンシャルは素晴らしい。私ならではの視点や技術をプラスし、その魅力を日本の皆さんに届けていきたい」と話す。
メニューを開くと、「24時間炙ったカリフラワー」や、「2日間火入れした豚バラ肉」など、料理が仕上がるまでに要した時間や日数に目が留まる。どんなルックスの料理なのか、一体どんな食感と味なのかと、想像力がかきたてられ興味が沸いてくる。
たとえば、「4日間かけて作るビーツのロースト」。鮮やかな赤色のビーツは、まず、加圧して身とジュースに分け、ジュースはスモークをかける。身は約3日間遠火でじっくりと火入れをしてからジュースを合わせて絡め、4日目に熾火で焼き上げる。ねっとり、むっちりとした食感、凝縮した甘さに驚かされる。
「24時間炙ったカリフラワーの薪焼き」は、約3日かけて遠火で火入れしたカリフラワーに、3週間かけて作った自家製澄ましバターをかけて仕上げたもの。コリコリッとした小気味いい食感のあと、押し寄せるジューシーさは悶絶必至。