サラリーマンも経験した異色の経歴 人間国宝に狂言師・茂山七五三さん
■亡き兄に代わり、狂言を愛されるものに
京都の大蔵流狂言の名家、茂山千五郎家の次男に生まれた。祖父の三世茂山千作(せんさく)、父の四世千作も人間国宝。3代続いての認定の知らせには、喜び以上に令和元年に急逝した兄、五世千作への思いをにじませた。「本来なら兄がいただくべきものだったはず。千五郎家の狂言を多くの方に愛されるものにしていくという役割を、兄に代わって果たしたいと思います」
若い頃から家業を継ぐ兄の補佐役に徹し、大学卒業後から40歳まで平日はサラリーマン、休日は狂言師という「二足のわらじ」をはいた異色の経歴を持つ。社会で養った狂言を客観的に見る目と、「『勤めたはるから(狂言が)下手や』とは言われたくなかった」という人一倍の努力が軽妙で確かな芸風に表れている。
老いらくの恋の物語「枕物狂(まくらものぐるい)」で人間のおかしみを巧みに描くなど円熟の芸域に達し、おいの千五郎さんや息子、孫ら世代が中心のにぎやかな舞台を引き締める。
「若い人には滑舌のよい明瞭な語りをきちんと会得してほしい」と師としての厳しさを見せつつ、「私もまだまだ大名役などを朗々とした声でやりたい。足腰が立たなくなっても、大きい声で圧倒したいですね」と朗らかに笑った。(田中佐和)