古今東西 かしゆか商店【立体刺繍のアクセサリー】
〈笠盛〉は、明治10年(1877)に帯作りを始め、昭和になってからジャカード刺繍機を使った刺繍業に転身した刺繍工場。織物でも編物でもなく “かぎ針” のミシンで多色のレースを作る技術「カサモリレース」を開発し、ファッションブランドやデザイナーとのものづくりにも取り組んでいます。地域の伝統だというノコギリ屋根の工場内には、ミシンがずらり。図案に合わせて動くようプログラミングされた針で、絵を描くように刺繍します。機械10台1セットを職人さん1人が担当。付きっきりで見守っているのも印象的です。
「ミシンはとても繊細で、湿度が少し変わっただけで仕上がりに影響が出ることもあるほど。職人がミシンの動きを目で確認し、上糸と下糸のテンションのバランスをミリ単位で調整しています」
とスタッフの方。美しい刺繍には経験を積んだ人の目と感覚が必要で、だからこそ機械刺繍でも手の温かさが感じられるんですね。
さて、そんなハイテク工芸の中でも、特殊な技術で作られるのが、立体刺繍のアクセサリーです。立体ってどういうこと……?
「本来の刺繍は布地に刺しますが、コレは糸だけで立体を作るので土台がないんです。例えばこの糸玉は、糸を何重にも重ねて手まりのようにしたものなんですよ」
と見せてもらったのはシルクの糸でできたネックレス。この艶やかな粒が糸だけでできているなんて! 触るとかすかに弾力があり、しかもとても軽いんです。
「そうなんです。わずか8gで洗うこともできる。真珠のようにきれいで何年も使い続けられるものを糸で作りたい、と考えたデザイナーが、3年かけて開発しました」