2つの巨大な壁が作り出す、ヴォルフガング・ティルマンスの視点と世界。
ホワイトボックスと化した〈エスパス ルイ・ヴィトン東京〉に出現した巨大な2つの壁。だが、そびえ立つ白い壁は空間を隔てることはない。わずかなズラしにより生まれた隙間から「こちら」と「向こう」が繋がっている。それはコロナ禍のもとに強いられた閉鎖的な日々からの抜け道を示唆するようにも、分断された世界に見出す希望のようにも思える。
『MOMENTS OF LIFE』と題されたヴォルフガング・ティルマンスの個展で展示されている作品は、2002年から20年にかけてのものであり、ここ数年で撮影されたものではない。しかし、彼の作品から何を読み取るかは、見るものの自由だ。会場に設置されたインタビュー映像で、ティルマンス自身もそう述べている。
スタジオの窓辺、あるいは滞在先のホテルの窓辺(2015年の大阪滞在時に撮影したものもある)と、ティルマンス作品には窓辺の景色がしばしば現れる。内と外の境界線にある空間には種々雑多なものが置かれ、その様は”メメント・モリ”を唱えた17世紀オランダの静物画を思い起こさせる。
他にも、中庭で談笑するグループの姿がエドゥアール・マネの《草上の昼食》を連想させたりと、現代生活の日常を切り取りながらも、そこに古典絵画のメタファーが感じられるのもまた興味深い。
様々なサイズの作品が配置された白い壁は、それ自体も一つの作品のよう。展示会場は実験場というティルマンス。そこでどんな化学反応が生まれるかは、見るあなた次第だ。
フォンダシオン ルイ・ヴィトン主催の「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環として、財団がコレクションするヴォルフガング・ティルマンスの作品21点が展示。彼のインタビュー映像も必見。●〈エスパス ルイ・ヴィトン東京〉東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル 7F TEL\u003c /strong> 0120 00 1854。~6月11日。11時~19時。休館日は店舗に準じる。入場無料。