人々を夢中にさせる社交ダンス その始まりと魅力を探る
軽快な4分の3拍子とロングステップのシャッセ、女性ダンサーが男性パートナーを「追い掛ける」パスートなどの優雅なバリエーションを持つワルツは、現代人の目には、富と趣味の良さを体現する時代遅れのステータスシンボルに映るかもしれない。しかし、この典型的な社交ダンスのルーツは、実は下層階級にある。
ワルツは現代の競技ダンスで認められているなかでは最も古いダンスで、18世紀のドイツやオーストリアで庶民が踊っていた求愛のダンスに端を発する。ドイツ語で「回転」を意味する「ワルツェン」を語源とし、クルクル回る動きで上流階級に対抗した。しかし、貴族たちは使用人のにぎやかなパーティーを見て、そこで踊られているダンスに挑戦し、結局、とりこになった。
当時流行していたメヌエットは振り付け通りに離れて踊るダンスだが、ワルツはパートナーと密着して即興で踊るダンスだ。18世紀後半から19世紀前半にかけて、公共のダンスホールがつくられるきっかけになった。そこでは、人々が見知らぬ人と交流し、ヨハン・シュトラウスなどの曲に合わせて、夜通しクルクル回ることができた。歴史家のルース・カッツ氏が指摘しているように、ワルツは自由と恋愛、そして、上流階級と下層階級が交わる機会をもたらした。
官能的あるいは軽薄すぎるという批判が出たにもかかわらず、ワルツは19世紀、ブームを巻き起こす。「ワルツは、さまざまな人が平等な立場で集うことを可能にしただけでなく、官能の私的世界で回転するというスリリングでフワフワする感覚によって、一種の現実『逃避』を可能にした」とカッツ氏は記している。