<竜王戦第5局こぼれ話>「栓抜きありがとう」と藤井聡太竜王、同い年の記録係・松下洸平初段との友情
広瀬八段がおやつを食べるために席を外すと、藤井竜王は栓抜きを使っての開栓を試みます。20歳と若い藤井竜王は、栓抜きを使う機会はほとんどなかったと推察されます。何度試しても、栓を抜くことができませんでした。今期の竜王戦七番勝負直前に記者が行ったインタビューで藤井竜王は「生活力は全く向上していなくて」と苦笑いしていました。「手先は不器用で」と話していたこともあり、この類いは藤井竜王にとって苦手分野でもあります。
栓抜きに果敢にチャレンジし続ける藤井竜王。盤側で見守っていた記録係の松下洸平初段は心の中で「手を切りそうな危険な栓抜きの使い方をしている。それでも、どうしても飲みたいのだな」と思っていて、藤井竜王に「私が開けましょうか」と声をかけました。そして、無事に松下初段が開栓しました。
自分で着付けができるため、竜王戦第5局は和服で記録を取り、話題となった松下初段は愛知県名古屋市出身の20歳。愛知県瀬戸市出身の藤井竜王とは同郷で同学年、そして同い年です。東海研修会で同時期に腕を磨いた旧知の仲でもあり、子供将棋大会で何度か対戦し、藤井竜王が松下初段に勝っていたそうです。
竜王戦第5局が行われた宮地嶽神社からホテルに戻るタクシーで一緒になった二人。藤井竜王は「松下君が記録の時に、よく負けているような。(今年5月の)大橋さん(貴洸六段)の時も記録係だったよね」と、にこやかに松下初段に語りかけたそうです。松下初段が藤井竜王の公式戦の記録係を務めたのは今回の竜王戦第5局で5回目でした。なんと、松下初段が棋譜を取った対局で藤井竜王は1勝4敗という結果になっています。
タクシーの中で会話を続けた二人。藤井竜王は照れながら「栓抜き、ありがとう」と松下初段にお礼の言葉をかけました。松下初段は「和服を着て盤の前に座っていた藤井竜王にはオーラがありましたが、盤を離れて話していたら少年時代にタイムスリップしたみたいで、懐かしさもありました」と明かしました。
同学年で同い年の20歳。今は将棋界トップと棋士を目指す奨励会員ということで、立場は大きく違いますが、松下初段は「局面の急所を捉える力、時間の使い方、形勢判断など、竜王戦第5局の記録係を経験して、得るものは多かったです。少しでも棋士に近づけるよう、努力を続けたいです」と話しました。(吉田祐也)