透明性、実効性は不透明 こども家庭庁の設置関連法成立
来年4月創設のこども家庭庁は少子化克服や貧困対策、虐待防止、性犯罪対策など幅広い分野を一元的に受け持つ。「子供の視点に立ち、各省庁より一段高い立場から、政府内の総合調整を行う」。野田聖子こども政策担当相は5月17日の記者会見でこども家庭庁が担う役割をそう強調した。
精神保健福祉士として当事者からのメール相談や、子ども食堂の運営に携わる杏林大の加藤雅江教授は「やっと、スタートラインに立てる」と話す。家庭の貧困、親からの心理的虐待、大人に代わって家事や家族の世話をするヤングケアラーなど、厳しい環境下で生き抜く子供たちを数多く見てきた。
子供たちは信頼関係を築いていく中で少しずつ胸の内を明かしてくれるようになる。日常の何気ないやり取りの中で小さなSOSが発せられるケースもある。だが、吸い上げることができている声はごく一部とも感じてきた。
「誰にも相談できない、相談窓口に行くこともできない子供たちがいる。声なき声を吸い上げ、必要な支援につなげる仕組みづくりを急がなければいけない」。加藤氏はこども家庭庁が果たす役割に期待する。
同庁設置に合わせて施行される「こども基本法」は子供の権利擁護の取り組みの推進を後押しする。
NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」の高祖常子(こうそ・ときこ)理事は「縦割り行政などのはざまで受け止めることができなかった子供たちがたくさんいる。そこに横ぐしを刺していく理念法ができることの意義は大きい」と力を込める。
若者の声を政治に反映させることを目指す「日本若者協議会」の室橋祐貴代表理事は、国連の「子どもの権利条約」を批准しているにもかかわらず、子供の権利を包括的に定めた法律がなかったことを問題視。こども基本法の成立に漕ぎつけたが「大人を含め、あらゆる人々に周知されない限り、子供の権利は尊重されない」と訴えた。
こども家庭庁内には首相の諮問機関「こども家庭審議会」を設置。有識者のほか子供や親らの意見も聞くとされるが「子どもコミッショナー」と呼ばれる第三者機関設置は見送られた。
日本総合研究所の池本美香上席主任研究員は「海外の子どもコミッショナーは子供の声を聞き取るだけでなく、子供の権利侵害を調査して改善を求めたり、政策提言を行ったりもする」と説明。「子供目線の政策の実現には、子供の代弁者として政府に積極的に働きかけていく第三者機関の設置が欠かせない。政府が変わっていくためのひと押しとなる組織が必要不可欠だ」と強調した。(三宅陽子)