卯年のはじまりに七福うさぎを鑑賞。寿ぎの絵画や国宝《曜変天目》も一堂に
静嘉堂は、1892年に三菱第二代社長の岩﨑彌之助(1851~1908)の邸宅内に文庫として創設された。その後、息子で第四代社長の岩﨑小彌太(1879~1945)が引き継ぎ発展。今日までに国宝7件・重要文化財84件を含む、およそ20万冊の古典籍(漢籍12万冊・和書8万冊)と6500件の東洋古美術品を収蔵している。
創設130周年を迎えた今年10月には、拠点としていた世田谷岡から美術館が移転し、岩﨑彌之助が美術館建設を願っていた
東京・丸の内にある重要文化財である明治生命館1階にて展示活動を開始した。
丸の内への移転を記念する今回の展示のみどころは、卯年生まれの岩﨑小彌太の還暦を祝して制作された五世大木平藏《木彫彩色御所人形》だ。この作品は、冠をつけた七福神たちの「宝船曳」「輿行列」「鯛車曳」「楽隊」「餅つき」の5グループに配置された58体の御所人形で構成される。
「宝船曳」の船首には、繁栄と飛躍の象徴である波兎(なみうさぎ)をイメージした前肢を揃えて跳ねる兎が目を引く。「輿行列」ではまた、先導する鶴を連れた寿老人と福禄寿、輿上に座す弁財天のふくよかな表情に注目したい。
そのほかにも、登る赤い太陽と金色に輝く雲を描いた横山大観《日之出》や酒井抱一《絵手鑑》(全72図のうち「富士山」)、正月用の摺物として作成され歌舞音曲に興じる七福神と梅・松を描いた鈴木春信《七福神遊興》など、新春にぜひ鑑賞したい名品の数々を楽しむことができる。
さらに、中国・日本の寿ぎの絵画も多数展示。火鉢にあたる人やお屠蘇を楽しむ人の姿を描き、白梅が香る寒い正月の情景を伝える李士達《歳朝題詩図》や、2羽の鶴や童子の腕の中にのぞく霊芝といった縁起の良いモチーフをダイナミックな筆跡で描いた池大雅《寿老図》といった作品も会場に並ぶという。
また、沈南蘋の《梅花双兎図》は、「長寿」を意味する白梅、「不老不死・多産」の意味を持つ白兎2羽、「夫婦長寿」を意味するシロガシラのつがい、薔薇などを描いた、ともに健やかに暮らせるようにという願いのこもった一幅。一年のはじまりに、大切なひとと並んで見たい名品だ。
絵画だけでなく、寿山福海の上を飛翔する双龍や蝶や花唐草を金泥で描いた永楽和全の《金襴手雲龍文銚子》をはじめ、正月にふさわしい吉祥デザインの茶道具や懐石のうつわ、宴席の道具なども展示。同美術館が所蔵する国宝《曜変天目(稲葉天目)》も新春の展示を華やがせる。
なお、曜変天目は喫茶専用の黒釉碗のうち内面に浮かぶ大小の斑文の周囲に青色や虹色に輝く光彩が現れたものを指し、完全な形のものは日本に現存する3点のみと、大変貴重。
新たな人生の船出を祝う御所人形の行列をはじめ、おめでたいもの尽くしの絵画・工芸品が一堂に会す本展。芸術鑑賞で福招きをすべく、丸の内に足を運んでみてはいかがだろうか。