謎解きはおやつのあとで…広瀬章人八段の発言に伏線? 藤井聡太竜王との「フルセット」なるか
事件・事故の取材は、「いつ」「どこで」「何が起きたのか」をしっかり聞くという、取材の基礎基本を身につけることができるからだと思うのだが、自分にとっては、記者としてのセンスのなさを痛感させられる日々だった。
新人記者は警察署で報道対応をする副署長のところに毎日、顔を出し、面白いネタがないかを探す。いわゆる「署回り」と言われるヤツである。
取材では、記者の質問をかわそうとする副署長と禅問答のようなやりとりが繰り広げられるのだけど、なにせ、ピンと来ないのだ。相手の反応や言葉の端々にちりばめられている「ヒント」みたいなものに。
自分のダメさ加減は朝、ライバル紙のスクープを見て、痛感することになる。
「あぁ、そういえば、副署長、あの時、微妙な反応をしていたな……」と。
新人時代の苦い記憶から約20年。今期の竜王戦七番勝負で藤井聡太竜王に挑戦する広瀬章人八段を取材するようになり、久々にあの時の感覚を思い出している。
別に広瀬八段は記者の質問をはぐらかそうとしているわけではない。ただ、彼の言葉にはたくさんの“伏線”があるのだ。まだ開幕局を終えたばかりなのに、すでに何度も「あぁ、そういえば、あの時、あんなことを言っていたな」という経験をさせられた。
たとえば、先月行われたポスター撮影の時のこと。解説者として出演したABEMA中継で、七番勝負に向けて和服を新調したという話をしていたので、早速、「開幕局で着るのですか」と聞いてみた。
すると広瀬八段は「いえ、それはないですね。その後のどこかです」と即答した。
自分のセンスのなさはそこからで、質問は新調した和服の中身に移っていったのだが、開幕局初日の朝、能舞台に姿を現した広瀬八段の姿を見て、ハッとした。
黒紋付き羽織袴(はかま)の正装である。そうか。広瀬八段、あの時にすでに開幕局はこの服でと決めていたのか。
広瀬八段が過去に竜王戦七番勝負に出場した時の観戦記をデータベースで読み返してみると、「祖父から贈られた黒紋付き羽織袴の正装」を開幕局で着たという記述がある。
ただ、いま着ている紋付きがその時と同じものなのか、対局が始まってしまえば、確認するすべはない。「あの時、ちゃんと事前取材しておけば、中継ブログとかで紹介することもできたのに」と後悔した。