ナショナル・ギャラリーの裏側から、いわさきちひろの人生、アニメ『ブルーピリオド』まで。この夏、家でみたいアートがテーマの映像作品まとめ
美術館の裏側を覗き見ることからアートを楽しむ。『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』
ドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマンが30年もの構想を経て制作した最新作『ナショナル・ギャラリー
英国の至宝』。この作品はイギリス・ロンドンにある「ナショナル・ギャラリー」の全館に3ヶ月間潜入し、アートの世界における日常や、美術館の舞台裏を覗き見る喜びを鑑賞者に届けてくれる。
作品内では、美術館によるギャラリートークやワークショップなどの訪れる人々に提供する体験や、絵画や額縁の高度な修復作業、予算やPR、企業タイアップの白熱した議論まで、すべてありのままの姿で映されている。
なお、ワイズマンは第71回ヴェネチア国際映画祭にて栄誉金獅子賞に輝き、“現存する最も偉大なドキュメンタリー作家”の称号を得ている。
世界最大の公共図書館に密着。『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
世界で最も有名な図書館のひとつであるニューヨーク公共図書館。その知られざる裏側を描いた映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』。監督は上述同様、フレデリック・ワイズマンだ。
1911年に竣工したニューヨーク公共図書館は、荘厳な建築様式の本館と92の分館からなる世界最大級の知の殿堂だ。世界有数のコレクションを誇りながらも、敷居が低く、多くの市民の生活に密着した存在でもある。
映画では、著名人の登場にくわえ、司書やボランティアの活動や、予算確保の会議、紙と電子にまつわる議論など、一般人が見ることのできない舞台裏を紹介する。
いまなお愛される絵本作家の知られざる波乱の人生を描く。『いわさきちひろ~27歳の旅立ち~』
世代を超えて愛され続ける絵本作家・いわさきちひろ。誰もが知っているその作家の、誰も知らない波乱の人生を描いた作品が『いわさきちひろ ~27歳の旅立ち~』だ。
いわさきちひろは1918年福井県生まれ。生涯を通じていのちの象徴として子どもを描き続け、ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著)を生み出した。
この映画では、望まぬ結婚、夫との死別、戦争で家をも失ったどん底の人生から、絵で生きる決意をするいわさきの生涯を追ったドキュメンタリー作品だ。どんな困難を前にしても決して諦めないその姿は、鑑賞者に驚きと感動を与えてくれるだろう。
モデルはあの現代美術の巨匠。『ある画家の数奇な運命』(有料)
『ある画家の数奇な運命』は、ナチ政権下のドイツにおけるひとりの若き芸術家の人生を描く物語。叔母の影響から芸術に親しむ日々を送っていた主人公は、叔母との別れ、叔母の面影を持つ女性との恋、義父との因縁と確執、西ドイツへの逃亡、など激動の時代に数奇な運命を生きることとなる。
また、この作品は現代美術の巨匠、ゲルハルト・リヒターがモデルとなっており、その苦悩と悲しみを希望と喜びに変えた半生を描いている。
現在国立近代美術館で開催中の「ゲルハルト・リヒター」展(~10月2日)ともあわせてチェックしたい。
浮世絵師であり葛飾北斎の娘・お栄が父・北斎や妹、仲間と生きた姿を描く。『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』(有料)
江戸風俗研究家で、漫画家としても活躍した杉浦日向子。その代表作がアニメーション化された映画作品が、原恵一監督の『百日紅』だ。この作品では浮世絵師であり葛飾北斎の娘であったお栄が主人公となり、北斎や妹、仲間たちとの関係を、江戸の風俗や庶民の生活、四季を織り交ぜながら描いている。
なお、2015年に公開されたこの作品は、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭長編アニメーション部門で審査員賞を受賞、第19回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門・審査委員会推薦作品にも選ばれるなど、数々の実績を残している。
20世紀フランスの架空の街にある「フレンチ・ディスパッチ」誌の最終号を巡る編集部模様。『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊
』(有料)
『フレンチ・ディスパッチ
ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は、20世紀フランスの架空の街を舞台に人気雑誌「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部を描くアメリカのコメディ映画。編集長の死によって突如廃刊が決まった「フレンチ・ディスパッチ」誌、その最終号に掲載されたストーリーがオムニバス形式で描かれている。監督は『グランド・ブダペスト・ホテル』『犬ヶ島』を代表作に持つ、ウェス・アンダーソン。
アメリカの映画批評サイトRotten
Tomatoesによると、映画批評家のなかで一致した見解として「(この作品は)ジャーナリズムの精神に対する愛情のこもった頌歌である」(一部抜粋)と言われており、例えば、収監された芸術家のエピソードなどは、現代美術に対する批評性も感じさせる。
伝説のプロダクトデザイナー、建築家・アイリーンの孤高の人生を追ったドキュメンタリー。『アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー』(有料)
妥協のないビジョンと冒険心からその才能を装飾、デザイン、建築の分野で遺憾なく発揮させた伝説のデザイナー、アイリーン・グレイ。その孤高の人生を追ったドキュメンタリーが『アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー』だ。
アイリーンは1878年アイルランド生まれ。バウハウスやデ・ステイルの影響を受け、ル・コルビュジエとともに仕事をしてきた。しかし、死の間際に自身にまつわる資料を処分してしまっており、その名前が歴史から徐々に消えていってしまっていた。
2009年、世界でも長い歴史を誇る美術品オークションハウス、クリスティーズで開催された「イヴ・サンローラン&ピエール・ベルジェ・コレクション 世紀のオークション」にて、アイリーンが手掛けた<ドラゴン・チェア>が、当時史上最高額の約28億円で落札されたことがきっかけとなり、また多くの話題を集めることとなった。本作はそんなアイリーンの生涯を追うドキュメンタリー映画だ。
Netflix
ポップ・アートの旗手、アンディ・ウォーホルの素顔をひも解く。『アンディ・ウォーホル・ダイアリーズ』
アメリカの芸術家でポップアートの旗手、アンディ・ウォーホル
(1928~1987)。1968年に銃撃されたウォーホルはその後、日々の出来事や心情を日記のかたちで記録し始めたという。『アンディ・ウォーホル・ダイアリーズ』は、その日記をひも解きウォーホルの素顔に迫るドキュメンタリー作品。
奇抜な作風ながら私生活は謎に包まれていたウォーホル。その日記に綴られた言葉の数々が、復元されたウォーホルの音声によって語られるのもこの作品の特徴のひとつと言えるだろう。
野心的な起業家か、それとも詐欺師か。『令嬢アンナの真実』
ドイツの大富豪の令嬢をかたり、ニューヨークの上流階級を欺いたアンナ・デルウェイの真実に迫る作品『令嬢アンナの真実』。
この作品は実在するロシアの詐欺師、アンナ・ソローキンが2013~17年に起こした大規模な窃盗事件のエピソードをドラマシリーズ化したもの。作中でアンナはSNSを駆使しながらドイツの富豪令嬢と身分を偽り、「ニューヨークでアート関連の事業を起こしたい」と周囲から巨額の資金を騙し取る。話題となったアンナが一体どういう人物なのかという真実に興味がそそられる作品だ。
時代を切り開いてきたアーティストやデザイナーの内面にスポットを当てる。『アート・オブ・デザイン』
様々な分野で次代を切り開いてきたアーティストやデザイナーに注目し、その内面にある想像源にスポットを当てて紹介するのが『アート・オブ・デザイン』だ。
シリーズにはベルリンやコペンハーゲンを拠点とし、《The Weather Project》などで有名なアーティスト、オラファー・エリアンソン
や、アメリカの書体デザイナーで、1991年にApple Computer Inc.(現在のApple Inc.)からリリースされた書体「Hoefler
Text」の制作者、ジョナサン・へフラーが登場。ほかにも、デンマークの建築家で、現在トヨタ自動車が静岡県裾野市に建設中の実験都市「ウーブン・シティ」の設計を担当しているビャルケ・インゲルスなど、様々なデザイナーの仕事場やその発想が生まれる内面を追う、非常に豪華な内容のシリーズとなっている。
美しくも厳しい美術の世界へ足を踏み入れる青春群像劇。『ブルーピリオド』
『ブルーピリオド』は、高校生・矢口八虎(やとら)が、1枚の絵に心奪われたことをきっかけに、美術の世界へ身を投じていく物語。美術大学の受験や技術を高めるための努力、表現への葛藤などが情感豊かに描かれており、原作の漫画は現在12巻まで刊行されている。そのアニメ化作品も、Netflixで見ることができる。
現在、寺田倉庫G1ビルにて「ブルーピリオド」展(~9月27日)が開催中
。八虎が美大を目指す道のりを追体験するような展示構成から、会田誠や服部一成、水戸部七絵など現役アーティストらの20代の頃の初期作品も展示されている。こちらも合わせてチェックしてみてはいかがだろうか。
アニメ―ションで「最強の世界」をつくる!『映像研には手を出すな!』
『映像研には手を出すな!』は、大童澄瞳のマンガを原作に、湯浅政明が監督したアニメーション作品。人並み外れた空想力を持つ浅草みどり、金の匂いに敏感な金森さやか、カリスマ読モでアニメーターを志望するの水崎ツバメの3人を主人公に、女子高生によるアニメ制作活動を描くストーリーだ。とくに、作品テーマに呼応するような高い作画技術と演出に注目してほしい。
また、本作も参照しながら、今日の「プロセス」を描く映像文化を論じた、映画史/映像文化論研究者の渡邉大輔による論考も合わせてチェックしてほしい。
ハリウッド100年の音の歴史に迫るドキュメンタリー。『ようこそ映画音響の世界へ』
映画音響の進歩と重要な役割に迫るドキュメンタリー作品『ようこそ映画音響の世界へ』。1927年に公開された初めての本格トーキー映画『ジャズ・シンガー』から、現在も発展を続ける知られざる映画音響の世界の歴史と技術を紹介する。
本作では裏方として名作映画を手掛けてきた音響技術者たちの創作と発見の数々を明らかにする。オーソン・ウェルズやアルフレッド・ヒッチコックがもたらした革新、ビートルズが映画音響に与えた影響、『スターウォーズ』のチューバッカをはじめとした人気キャラクターたちが生き生きとして見える秘密など、貴重な体験談を知ることができる。
U-NEXT
ダ・ヴィンチ最後の絵画をめぐる、欲望まみれのドキュメンタリー作品。『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』
ダ・ヴィンチの最後の絵画と言われる《サルバトール・ムンディ》の発見をきっかけに巻き起こる闇の金銭取引や、知られざるアート界のからくりなどを生々しく捉えたドキュメンタリー作品が『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』だ。
この作品では、美術商や学芸員、新聞記者、フランス文化大臣の高官からサウジアラビアの王子まで、《サルバトール・ムンディ》を取り巻く様々な立場の人間模様や行われた取引が語られている。アートにまつわる欲望について考えさせられるような作品だ。