謎の絵師「絵金」が手がけたのはどっち?うり二つの屏風2点…顔料の科学調査で特定に一歩近づく
松島朝秀・高知大准教授(文化財保存学)が昨秋、日本比較文化学会の「比較文化研究」149号で発表した。同錦絵は加賀藩のお家騒動が題材。高知市の朝倉神社、高知県立美術館がそれぞれ所蔵し、絵金か絵金派の作品とされてきたが、制作者は特定できておらず、松島准教授が2019年、両作品を同じ場所で比較した。
元素の種類を特定できる「蛍光X線分光分析」とデジタル実体顕微鏡で調べた結果、中央右下に描かれる巻物の柄模様に使われた黄色の材料が異なった。
朝倉神社所蔵はヒ素を含む「石黄」だったが、美術館の作品は人工配合されたクロムや鉛などだった。石黄は水に溶けやすくて毒性が強く、安全意識の高まりから、弟子たちが顔料を変えた可能性があるという。
日本画の専門家らによる目視観察では、筆致の違いも確認された。朝倉神社所蔵は表情豊かで輪郭や毛髪の筆運びに勢いがあった。
美術館作品は慎重に筆を進めたせいか、線にむらが見られた。
両作品とも、互いを際立たせる赤、緑、青の組み合わせが、ろうそくの薄明かりでも展示効果が高い大胆な彩色表現で、明治以前の日本画では珍しいという。
展覧会「絵金」は6月18日まで。
◆ 絵金 =幕末から明治初期にかけて活躍した弘瀬金蔵(1812~76年)の愛称。江戸で狩野派に学び、土佐藩家老お抱えとなったが、偽作事件に巻き込まれて城下を追われ、町絵師になったとされる。数多くの芝居絵屏風などを描き、鮮やかな色遣いや迫力ある表現が庶民を魅了した。