草間彌生の新作絵画シリーズを初披露。「毎日愛について祈っている」展で迫る草間創作の新境地
草間彌生は、最新の作品群の背面に「EVERY DAY I PRAY FOR
LOVE」というセンテンスが繰り返し記すようになったという。本展のタイトルは、その新作絵画シリーズから因んだものでもある。
本展は、同シリーズを初披露するもので、絵画や彫刻の近作も並ぶ。70点を超える出品作品は、ほとんど世界初または日本初公開のものであり、草間の創作の現在地に迫ることができる展覧会だ。
1階のエントランスでは、1996年にピッツバーグのマットレス・ファクトリーでの個展で発表された《水玉強迫》(1996/2022)が大きな存在感を放つ。鮮やかな水玉模様の球形バルーンとそれを模した円形ステッカーによるこのインスタレーション作品では、水玉のモチーフを反復・集積する手法を用いて、鑑賞者を草間の幼少期からの幻覚体験に誘うような構成となっている。
2階のギャラリーに入ると、新作絵画シリーズ「毎日愛について祈っている」が鑑賞者を出迎える。
草間は、2009年から2021年にかけて大型アクリル絵画シリーズ「わが永遠の魂」を800点以上描いていた。同シリーズは2018年以降小型化しており、今回の新シリーズはさらに一回り小さいものとなっている。
新作シリーズでは、「わが永遠の魂」シリーズから継続される横顔や人物像、水玉、目などのモチーフとともに、詩のような短いテキストが描かれている。また、アクリル絵具のほか、素早く描画できるマーカーペンも多用されているのが特徴だ。
同館館長の建畠晢は「美術手帖」に対し、これらの新作は草間が自室で描いたものであることを明かす。そのため、サイズが小さくなり、マーカーペンも使用されているのは自然の流れだという。また、「新作シリーズでは、ペインティングとドローイングの両方の要素が一体化している。ペインティングでありながら、ドローイングの即興的な線も特色だ」と話している。
同じ展示室では、2000年代初頭に制作された、マーカーペンを使ったドローイングや、近作のソフト・スカルプチュア、「わが永遠の魂」のなかでも最大サイズの絵画作品などが並んでおり、草間の多様な創作活動を紹介。また、近年の詩作もあわせて展示されており、草間の内面を窺い知ることができるだろう。
続く3階のギャラリーでは、「わが永遠の魂」シリーズから1×1メートルの小型の絵画作品群とともに、覗き込む小型ミラールームの最新作《天国へのぼった階段で見た宇宙の姿》(2021)が展示。
2021年の「神秘と象徴の中間」展
で紹介された小型のミラールーム作品とは異なり、鏡張りの作品の表面に空いている穴の内側には、半球体の有色アクリルが設置されている。穴から内部を覗き込むと、カラフルな水玉柄が内部で反射しており、無限に増殖するような空間が広がる。
また4階と5階では、前回展でも展示された体感型作品《I’m Here, but
Nothing》(2000/2022)とカラフルな彫刻作品《命》(2015)が引き続き展示。草間の特徴的な「自己消滅」の世界観や旺盛な実験精神を感じとることができる。
建畠館長は、草間について改めて次のように評価する。「計画的にイメージをドローイングして仕上げていくというのではなく、構図なども決めたりしてはいない。次から次に湧き上がってくるイメージをいきなり描き始めていく。結果的に見ると、非常に均一な構成ができあがっているのが本当に素晴らしい」。
初期から一貫したモチーフや手法を繰り返しながら、いまなお新たなシリーズの制作に懸命に取り組んでいる草間。近作から最新作までの作品を通し、その創作の新境地を会場で確かめたい。