竜王戦第3局・明暗分けた形勢判断…先入観がない藤井聡太竜王の強さ、常識にとらわれた広瀬章人八段は痛恨の敗戦
第3局の舞台は竜王戦初開催となる静岡県富士宮市。先手番の広瀬八段が相掛かりの戦型に誘導し、初日に新構想の仕掛けを敢行した後は、手厚く指してリードを奪った。藤井竜王は「駒組みがよくなかった」と局後は反省しきりだった。午前は日が差して富士山をはっきり望むことができた対局2日目も、広瀬八段は丁寧な指し回しを続けて優位を保った。藤井竜王は「広瀬八段は終盤の切れ味が鋭いです」と七番勝負前に評していた。終盤で広瀬八段は棋風通り、攻め合いで勝つ順を選んだ。
▲8二角(第1図)と飛車銀両取りをかけた広瀬八段。大盤解説会場の青嶋六段は「広瀬八段は、前を向いて勝ちにいきました」と説明した手だ。ここから藤井竜王は冷静に△7五飛と大駒を切った。
派手な手に見えるが、両取りを切り返す唯一の手段で、これは両対局者が織り込み済みの順だった。実戦は▲7五同銀△同角▲6六歩(第2図)と進行した。
冒頭の「ある局面」というのは、▲6六歩と先手が打った局面のことだ。この第2図での形勢判断が勝敗を分けた。歩を急所に活用した▲6六歩は、いかにも「筋」の一手でプロ好みだ。後手の角の利きを遮断し、△同角と取れば、先手は6四の銀を取ることができる。八代七段、青嶋六段は「▲6六歩は感触がいい手」と評していた。そして、広瀬八段も「▲6六歩は効率がいい手なので、何か勝ちへの手段はありそう」と踏んでいた。ところが……。
常に謙虚で自身の将棋に厳しい藤井竜王が第2図の局面を迎え「手応えがありました」と語ったのだ。この一言をフラットな目線で変換すると「後手がはっきり優勢」という意味合いになる。本局を検討していた控室でも、対局者の広瀬八段も「まだまだ難しい」と判断していた局面で、自身の形勢が格段に良くなっていることを冷静に判定していた藤井竜王。いかにも玄人好みの▲6六歩を食らったものの、「痛くない」と落ち着いて判断していたのは、そこから3手先の局面が「寄せ」につながっていると認識していたからだ。