「北海道新幹線延伸」の裏に隠れた巨悪の正体とは…著者・相場英雄さんインタビュー「利権を守るために組織ぐるみで事件を隠蔽する鉄道会社や官僚はまったくの創作ではないのです」
―本作『覇王の轍』は”田川信一シリーズ”のスピンオフ作品で、田川のバディを務めたキャリア警察官・樫山順子が主人公ですね。これまでの作品との大きな違いは何でしょうか。
『覇王の轍』は自分の問題意識だけでは生まれなかった作品でした。『震える牛』では食品業界、『アンダークラス』では技能実習生の問題を描きましたが、もともと僕がそうした問題に興味を持っていたことが大きかった。しかし、今回の作品で描いた鉄道の問題には、特に興味も知識もなかったのです。そもそも僕は東京―名古屋間なら、新幹線ではなく自動車を選ぶタイプですから(笑)。
では、なぜこの作品が生まれたのか。きっかけとなったのは、新幹線の建設プロジェクトにおける構造的問題について、僕のところにある筋からの”タレコミ”があったことでした。詳細は明かせませんが、話を聞くうちに芽生えた鉄道行政に対する危機意識を、何とか作品に投影させたいと思うようになりました。今回描いたような、利権を守るために組織ぐるみで事件を隠蔽する鉄道会社や官僚たちは、まったくの創作ではないのです。
―北海道新幹線を題材にするうえで、取材などはされたのでしょうか。
まずは函館まで新幹線に乗ってみました。東京駅を出た時はほぼ満席でしたが、仙台、盛岡と人が下りていき、新青森を越えたら自分と同行した編集者だけになった。札幌まで新幹線が延伸されたとしてどれだけの需要があるか疑問を覚えました。さらに札幌―旭川間も鉄道を利用してみたんですが、特急列車の塗装が剥げており、へこみもあった。冬場は自然が厳しく電車が傷む。北海道では経営難のなか、なんとか鉄道を走らせているということを、肌で感じることができました。
―主人公の樫山順子は一匹狼のヒーローではなく、警察という組織の一員であるがゆえに上司の妨害にあうなど、さまざまな壁に突き当たります。
本作は、樫山ちゃんが道警の捜査二課長として、北海道に着任するところから始まります。といっても本人が希望したわけではなく、上からの突然の辞令があったから異動したんです。そうした辞令に従わなくてはならないのも組織人の宿命といえば宿命ですし、はじまりからして彼女が「組織人」であることがわかる。
また、彼女は不器用だけどすごくまじめで、だからこそ組織で衝突を繰り返す。組織では利己的で口のうまいやつが出世して、誠実な人、特に女性が割を食う構図はよく見られる。そうした構図にも目を向けました。
さらに、僕が記者として時事通信社にいた時の経験も反映しています。会社に不祥事があった時に上司たちが寄ってたかって事実を隠蔽しようとするのを、一記者として僕は目撃しました。記者として大きな賞を受賞した人も加担していて、志がある人でも組織を守ろうと保身に走ることもあるんだと学びました。どんな場所でも起きることですが、個人が組織にからめとられていく構図を描きたかった。