今若者が癒やされにくる“リニューアル銭湯”はどのようにして生まれるのか
なかでも昔ながらの銭湯をリノベーションし、現代的でお洒落な空間としてリニューアルした銭湯には、若者を中心に癒やしを求める多くの人が足を運んでいる。
そんな“リニューアル銭湯”を数多く手がけるのは銭湯設計士の今井健太郎氏だ。町田の「大蔵湯」、新宿の「栄湯」は間接照明で明るさを抑え、浴室にモダンアートを取り入れるなど、これまでの銭湯にはない空間が特徴的だ。
人々が集まる空間はどのように作られているのか。今井氏がリニューアルを手がけた銭湯のひとつ、新大久保の「万年湯」にて、話を聞いた。
ーー 今井さんが手がけられた“リニューアル銭湯”は、近所の利用者だけでなく、遠方からやってくる若者も少なくありません。これまで手がけた銭湯はどのくらいあるのでしょう?
今井:都内だけで19の銭湯を設計しました。有名なところでいうと渋谷の「改良湯」や、直近の竣工物件では目白の「五色湯」、インタビューを行っているここ、新大久保の「万年湯」もです。多くが大規模改修の際に要望を受けリニューアルを行いました。
おかげさまで、銭湯以外の施設も依頼されるようになりました。最近は銀座・グランベルスクエア内の「コリドーの湯」や山形・寒河江市の温泉施設「ゆるり寒河江」、台湾のスポーツクラブ「ジェクサー・フィットネス&スパ」など銭湯以外の温浴施設も設計しています。
ーー 銭湯の設計を数多く手がけられていることから「銭湯設計士」とも呼ばれていますが、銭湯が好きで始められたのでしょうか?
今井:もともと銭湯に行く習慣すらなかったのですが、設計事務所に勤めていていた若手の頃に、少しでも家賃を浮かせたいという思いから風呂なしアパートに引っ越したことをきっかけにさまざまな銭湯を巡る生活が始まりました。
そのアパート周辺に、たまたまいい銭湯がたくさんあったこともあり、日替わりでいろいろな銭湯に行っているうちにハマり、次第に都内の銭湯を巡るのが趣味になっていきました。
ーー 趣味だった銭湯を設計しようと思ったきっかけはあるんですか?
今井:ある日「KING OF 銭湯」と言われる足立区の「大黒湯」で、まるで大黒湯のヌシかという存在感と超然とした所作で入浴を行う仙人のようなお客さんと出会ったんです。あまりのインパクトのある出会いが「銭湯を設計してみてはどうだ?」という神のお告げのように感じてしまいまして(笑)。以来銭湯の設計を志すようになりました。
加えて、当時は今ほど銭湯に注目が集まっておらず、その数はどんどん減る一方でした。いちファンとして銭湯の魅力をアピール出来るんじゃないかと思い、自分で設計しはじめてしまったわけです。