アジアの“フェアブーム”のなか、今年の「アートフェア東京」は何が変わった?
の開催を約2週間後に控え、日本最大級のアート見本市「アートフェア東京」が3月9日に開幕した。
今年の出展者総数は144と、昨年の150から微減。フェア開催前にもっとも話題になったのが、カイカイキキギャラリーの15年ぶりの出展だろう。会場の入口付近で大型のブースを構えた同ギャラリーでは、MADSAKIや大谷工作室、タカノ綾など所属アーティストの作品展示のほか、壁一面を使ったMr.のプレゼンテーションを行い、大きな存在感を放つ。
同ギャラリーのディレクター・當麻篤は「美術手帖」の取材に対し、「15年前の出展以来、当ギャラリーは海外に向けた発信に注力してきたが、コロナ禍においては国内への発信も増やしたい」という思いで今回の出展を決めたとしている。また、同フェアの体制の変化や、「フレキシブルで自由な展示の仕方」ができるようになったことも、復帰の決め手となったという。
今年の体制は、出展ギャラリーの選考委員会(フェアコミッティ)に小山登美夫(小山登美夫ギャラリー)など従来のコミッティに加え、久保田真帆(MAHO
KUBOTA GALLERY)と牧正大(MAKI
Gallery)が新たに参加。小山は開幕前の記者会見で、「いまはアートのジャンルも増えてきているので、それを審査するためにふたりの新しいコミッティに入ってもらった。古美術から近代・現代美術、工芸まで、誰が来ても好きな美術が見つけられるフェアとなっているので、ぜひ来場してほしい」と話している。
同フェアのマーケティングディレクターである北島輝一も、「この5~6年間、アートフェア東京は大きく変わってきたと実感している」と語る。北島によれば、2008年のリーマンショックや11年の東日本大震災により国内のアートマーケットは低調が続き、それが出品作品の価格帯にも反映されていたという。しかし、17年に日動画廊が岸田劉生の作品3点を約3億円で販売したことで、「高い作品が売れる」という情報が伝わり、クォリティの高い作品を展示するギャラリーも増えてきたという。
例えば、今年のフェアでは、タカ・イシイギャラリーがスターリング・ルビーの高さ2.6メートルの彫刻や新作絵画、19年のターナー賞受賞作家オスカー・ムリーリョの絵画、いけばな草月流の創始者・勅使河原蒼風による屏風などを展示。TARO
NASUのブースでは、コンセプチュアル・アートの巨匠ローレンス・ウィナーや、今年1月までプラダ青山店で個展を開催したサイモン・フジワラなどの作品も印象的だった。
今年初出展の海外ギャラリーのなかで、ロンドンのUnit
Londonはライアン・ヒューイットやキム・ヒースー、エスター・ヤンセン、香港と上海に拠点を置くPearl Lam GalleriesはMr
Doodleやイシャク・イスマイル、ザネレ・ムホリなどを紹介。いずれも海外アーティストを中心としたラインナップだ。両ギャラリーのディレクターも、同フェアへの出展を通じて日本の市場やコレクターにもっとエンゲージしたいという意向を示している。
フェア開場後の数時間、多くの来場者がギャラリーのスタッフに作品の価格を尋ねる姿が見られた。カイカイキキギャラリーでは、半数以上の作品に購入申込みが入っており、多くのギャラリーは作品に関する多数の問い合わせを受け、ウェイティングリストの形式で適切なバイヤーをセレクトしているという。
北島は、国内のアートマーケットにおいて価格の不透明性などの課題があるとしつつ、アートをコレクションする文化とそれに対応する税制の重要性を訴えている。「(同フェアを通して)文化とそれを支えるマーケットを皆さんや政府に認識のうえ、それをどう残してコレクションのかたちで築き上げていくかを考えていただけるきっかけになったら」。
フリーズ・ソウルやART SG
などの新しい国際的なアートフェアの立ち上げにより、アジアのアートマーケットはこれまでになく注目を浴びている。そんななかで日本のアートシーンが海外からより目を向けられるようになったいっぽう、国内のアートフェアを牽引してきたアートフェア東京にとって危機感がないとは言い難いだろう。
こうした状況について北島は、「いまの武器だと我々だけでは戦えない」と素直な気持ちを語る。同フェアは、SNSや海外のアートECサイトを通じてより多くのコレクターにアプローチすることを試みながら、北島は国内の美術館やコレクターが新規収蔵展を開催することで、コレクション構築の土壌をつくる必要性を述べている。「そうすることで、一般の購入層の動きも変わってくるだろう」。