時空を超える宮永愛子の作品に会える3つの旅へ|青野尚子の今週末見るべきアート
宮永愛子は京都出身、同地を拠点としているアーティスト。ナフタリンなどを使った作品で知られている。ナフタリンは常温で昇華(固体から液体を経ずに直接、気体になること)し、再結晶する。宮永はそのナフタリンを使って椅子や鍵などのモチーフをかたどった作品をつくっている。それらは次第に昇華してケースなどに結晶となって現れる。
〈森美術館〉で開かれているグループ展『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』で宮永はナフタリンで靴をかたどった作品《Root of Steps》を出品した。ハイヒール、バレエシューズ、草履などさまざまな靴が並べられている。〈森美術館〉は六本木ヒルズ森タワーの53階にある美術館。地下鉄や地上からはエレベーターやエスカレーターで上へ上へとのぼっていくことになる。
「こんな高いところにある美術館ってほかにないと思うんです。その六本木ヒルズの『根』になるようなもの、呼吸させるものって何だろう。やっぱりそれは人の足、足跡(そくせき)みたいなものじゃないか。人がいなければその場所は呼吸しないわけで、それで靴がいいんじゃないかな、と思ったんです」
靴は〈森美術館〉がある六本木ヒルズで働いている人や、そこを訪れた人が履いていたものだ。
「見ていると世界中からみんなが何か期待を持って集まっている。訪れる人だけでなく、ここでお店を運営したりして働いている人、生活している人もいる。ここに集い続けることが場所の未来につながるような気がしました」
中敷きにはラベルがある。料理人、恋人、六本木ヒルズ自治会員など「靴を履いていたときにその人は『誰』だったのか」が書かれているのだ。
「その人の人生を知らなくても、想像しただけでわくわくしてきます。靴を型取りさせてくれた人の中には六本木ヒルズができる前からそこに住んでいる方もいらっしゃいました。その人の靴からは長い時間が見えてくる」