すごいよ昔の日本人…! 美しすぎる「和の言葉」に出会える歌枕の展覧会
【女子的アートナビ】vol. 254
『歌枕 あなたの知らない心の風景』では、日本美術のさまざまな作品をとおして歌枕の世界を紹介。平安時代の貴重な古筆や江戸時代の屏風絵、陶磁器や茶道具、工芸品など多彩な美術品を見ることができます。
そもそも「歌枕」とは、なんでしょう。あまりなじみのない言葉ですよね。辞書を見ると「和歌に詠み込まれる名所や旧跡」と載っています。
古くから、日本人は自然の美しさやさまざまな物事について感動したとき、自らの思いを和歌に詠んで表してきました。
とりわけ美しい風景に出会うと和歌に詠まずにはいられなかったようで、繰り返し詠まれた土地には特定のイメージが定着。しだいにその土地は日本の名所として知られるようになり、実際にはその場所に行ったことがなくてもイメージを共有できるようになりました。
歌枕には千年以上の歴史があり、おもに平安時代に成立したといわれています。歌枕で共有された土地のイメージは、和歌に詠まれるだけでなく絵画や工芸デザインにもなり、時代を超えて伝わっていきました。
歌枕の例として、一番わかりやすいのは「吉野」。今も桜の名所である吉野は、桜のイメージと結びつく歌枕です。
では、実際に作品を見ながら歌枕が描かれた世界に入ってみます。
第一章「歌枕の世界」では、見ごたえのある大きな屛風絵で歌枕のイメージを体感できます。
《吉野龍田図》の右隻には画面いっぱいに桜が描かれ、吉野の春を表現。作品のところどころに短冊の絵が見えますが、そこには吉野を詠んだ和歌が書かれています。
いっぽう左隻では、秋の龍田川(=紅葉)を表現。この「龍田川」も歌枕のひとつで、和歌でたびたび詠まれている場所です。有名なのは、百人一首の「ちはやぶる神代もきかず龍田川からくれないに水くぐるとは」(在原業平)。
この作品を見るだけで、昔の人は紅葉の名所・龍田川に行った気分になれたようです。
ほかにも、歌枕をモチーフにした美術作品が日本にはたくさんあります。
例えば、「武蔵野」という歌枕を題材にした作品にはススキが茂る原野に月が沈む様子が描かれ、「宇治」では川にかかる橋や柳・水車など、「住吉」や「因幡山」では松の名所などが描かれます。
和歌や歌枕を知っていれば、日本美術をさらに深く楽しむことができそうです。