村上春樹さん新刊長編発売 「街とその不確かな壁」
村上さんは1980年、タイトルの酷似した中編「街と、その不確かな壁」を文芸誌に発表したが書籍化はせず、失敗作と位置付けていた。インタビューに「きちんと決着をつけないといけないと思った。年齢を重ね、腰を落ち着けて人の内面を描きたくなった」と語った。
新作は600ページ超の長編で3部構成。1部は中編を全面的に書き直した内容で、主人公の「私」が、10代の頃に思いを寄せた女性から聞いた高い壁のある幻想的な街に入り込む。2部では現実世界に戻り、福島県の小さな町の図書館長となって不思議な体験をする。
中編は初期の代表作「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(85年)の原型的な作品とも位置付けられているが、新作は全く異なった物語になった。
紀伊国屋書店新宿本店(東京)では13日午前0時から、事前予約した約70人のファンらに販売。川崎市の会社員橋本拓実さん(27)は事前に中編も「予習」し、「『壁』が何を意味するのか楽しみ。この後、仲間と喫茶店で朝まで読み込みます」と笑顔で語った。社会保険労務士の渡辺浩太朗さん(32)は「新型コロナウイルス禍の経験がどう影響しているか気になります」と期待した。
村上さんは49年京都市生まれ。早稲田大を卒業後、79年に「風の歌を聴け」でデビュー。主な長編小説に「ノルウェイの森」「ねじまき鳥クロニクル」「1Q84」などがある。