瀬戸内国際芸術祭2022(1)初のコロナ禍 …対策奏功し来場者の感染は1人
実は、どちらも瀬戸内の島で楽しめる現代アートだ。
瀬戸大橋を望める香川県坂出市の沙弥島(しゃみじま)。万葉歌人・柿本人麻呂が歌を詠んだとされる歴史あるこの島では、宇宙飛行士の奇抜なオブジェが展示された。
錆び付いた、歴史を感じさせるバス停のベンチに座っているのは、トランクを手にした宇宙飛行士。のどかな雰囲気とのアンバランスさが新鮮で、訪れた女性は「コロナ禍で暗くなることが多いが、アートを見て楽しめた」と満足していた。
2010年に始まった瀬戸内国際芸術祭、略して「瀬戸芸」。香川県と岡山県の12の島と高松港、宇野港が舞台だ。33の国・地域から184組のアーティストが参加し、214の現代アートを展開する。
2019年の前回は、直前にアメリカのニューヨーク・タイムズ紙が「芸術と自然が調和する場所」として瀬戸内の島々を紹介したこともあり、大いににぎわった。
ただ今回は、コロナ禍での初めての開催。小さな診療所しかなく医療体制が脆弱な過疎の島に、多くの人が押し寄せて感染が拡大したらどうするのか。島民からは懸念の声が上がった。
そこで瀬戸芸実行委員会の会長、香川県の浜田恵造知事は対策を打ち出した。
来場者が島に渡る前に検温や体調確認を徹底し、リストバンドを配って管理すること。入場制限をかけること。開催地域で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出た場合、中止を含めて検討すること、など。こうした対策により、瀬戸芸を開催しても1日あたりの新規感染者は最大1人から2人の増加で抑えられるとする試算も発表した。
それでもやはり、「来場者は対策を守ってくれるのか」と不安な声が上がり続けた。
そして開幕後、港などでは検温や体調確認に協力する来場者の姿があった。来場者からは「瀬戸芸のスタッフは大変だろうけど対策により安心して見ることができる」「島の人の迷惑にならないで済めばいい」との声も聞かれた。
結果的に、春会期の35日間で感染が判明した来場者は、わずか1人。屋外作品が多く密になりにくいことも功を奏した。
春会期を終え、浜田知事は「問題が生じず、まずは良かった。安全安心が最も重要で、より多くの人が安心できる瀬戸芸にしたい」と話している。
感染が拡大するという事態は避けられ一安心。来場者の理解も広がり、ウィズコロナ時代のアートイベントの形を示したといえる。
瀬戸内国際芸術祭2022の夏会期は8月5日~9月4日、秋会期は9月29日~11月6日に開催される予定だ。
(岡山放送・前川裕喜記者)