【京都・七条】丸福樓、河井寬次郎記念館…。レトロ建築を巡り、甘い手みやげを買う。|甲斐みのりの建築半日散歩
任天堂の創業家である山内家が大切に守り続けてきた歴史的建物で、長らく非公開だった旧山内任天堂社屋が、リノベーションを経てホテルに生まれ変わるというのをニュースで知ったのは、ちょうどこの連載が始まる2020年初頭頃。それから2年。2022年の4月に、とうとう開業の日を迎えると聞いて京都を目指した。
最寄りは京阪電鉄・七条駅。鴨川と高瀬川の間に位置する鍵屋町は、昔ながらの町家や商店建築が残る静かな町並みで、繁華街とは異なるゆったりとしたときが流れる。そこに1930(昭和5)年に建てられたのが、1889(明治22)年に花札やカルタの製造を始め、世界的なゲームメーカーへと発展を遂げた任天堂の本社社屋。表通りの正面玄関から北に向かって3棟が連なり、それぞれ、事務所棟、創業家である山内家の住居棟、倉庫棟として使用されていた。
そこかしこにアール・デコ調の装飾がほどこされた鉄筋コンクリート4階建てのビルを設計したのは、京都に建築事務所を構えていた、増岡熊三と田中義光。サンドベージュのタイルを張り巡らせた外壁には、ところどころに幾何学模様の煉瓦や石材が。館内にも大理石やカラフルなタイルが贅沢に用いられ、格子窓のダークグリーンが空間全体を引き締めている。
ホテルに冠された〈丸福樓〉という名は、山内家の屋号〈丸福〉に由来する。プロデュースを手がけるのは、神戸〈オリエンタルホテル〉や奈良〈菊水楼〉をはじめ、地域性を活かしたホテルやレストランを運営する〈Plan・Do・See〉。既存棟2棟はオリジナルのディティールを蘇らせ、新棟は建築家・安藤忠雄により、コンクリート造りの新たな建物が誕生した。