ロジカルでラディカルな最先端文学「古事記」の魅力を体験できる一冊!《書評》『口訳 古事記』
作家・町田康が日本最古の神話「古事記」を現代語訳した『口訳 古事記』が話題です。本書を読んで、「『古事記』はなんてロジカルでラディカルな文学なのだろう」と再認識したという三宅香帆さんが、新たな視点で本書と「古事記」の魅力を読み解くオリジナル書評をお届けします。
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『古事記』はなんてロジカルでラディカルな文学なのだろう。
本書を読んで、そう再認識した。
『古事記』とは、「いかにしてこの国はできたか」を、物語という理屈でちゃんと説明しようとした文学なのだ。
そもそも成り立ちを説明するのは難しい。たとえば小さい子に「ねえねえ、おばさんはどうやって今のおばさんになったの?」なんて聞かれても、「え、えーと、私の地元は田舎で、そんで何年に生まれたんだけど……」としどろもどろになって終わってしまうだろう。しかし『古事記』の作者は、「この国はどうやってできたか」の論理を、作り上げる必要があった。かなり頭のいい作者でないとできないことだ。
「いやいや、『古事記』は神話でしょう? いきなり国が生まれたり、神々が争ったり、意味わからないところたくさんあるよ、論理的なわけがないでしょう」と言われるかもしれない。たしかに古典や日本史の授業で習う『古事記』は、古ぼけたカビの匂いのする神話に見えるだろう。しかし実は、『古事記』という書籍は、しっかり読むと、ちゃんと論理が通っている。というか、論理的に神々のキャラを使って、この国の成り立ちを語ろうとする様子は、当時においては革新的すぎる、とも言える。
そんな『古事記』の魅力を、町田康の『口訳 古事記』は現代によみがえらせた。
本書の魅力は、読みやすく今っぽい文体で『古事記』を現代語訳したという点に留まらない。『古事記』の持つ論理性を、ちゃんと現代の私たちにもわかるように現代語訳した、というところにある。